Facebook Pay が Shopifyストアで展開できることの意味と、決済プラットフォームとしての可能性

Facebook Pay が Shopify ストアで利用可能に

2021年9月2日、Facebook は 自社の決済システムである Facebook Pay を、自社プロパティ(Instagram、Messenger、WhatsApp など)の外側である Shopify マーチャント向けに提供を開始すると発表しています。

オフィシャルリリースが見つからなかったのでFacebookなのにTwitterですが…

これは、端的に言えば Shopify を利用しているEC事業者(記事執筆時点ではアメリカ国内のみ)が、自社サイトの決済に Facebook Pay が追加できるようになる、ということです。

Facebook は以前からこういった動きを進めていくと決算発表の場などで示唆していますし、2021年6月には Shopify からも Facebook や Instagram での決済システムの提携について発表があるなど、相互の連携強化は以前からアナウンスされていましたので、このニュース自体は大きなサプライズとしては捉えられていません。

一方で、サプライズではないとはいえ、Facebook Pay の最初の拡大先が全世界で180万ほどのストアを束ねるといわれる Shopify だという事実は、Facebook が決済プラットフォームという巨大なマーケットを本気で獲りにきている証のように思えます。

Facebook Pay についておさらい

Facebook Pay はもともと、Facebook や Messenger の中で寄付金募集やゲーム内課金、個人間の送金などを目的として2019年11月にスタートした決済サービスでした。

参考記事

 

上記の記事内でも「Facebook Marketplaceの厳選されたFacebookページや事業者からの買い物に使うことができる。」とあるとおり、当時はまだコマースの決済については整っていませんでした。

2019年の Facebook といえばデジタル通貨「Libra」で盛り上がっていたタイミングでもあり、Facebook Pay は将来的にその乗り物としての利用も睨んでのローンチだったと思われます。

結果的に Libra は既存の金融システムから攻撃の的となり、公聴会での質問攻めや、その後「Diem」に名称変更するなど、難しい局面がつづいています。デジタル通貨による既存通貨の Disrupt が少し先送りになる以上、Facebook は現在の金融の仕組み内でトランザクションベースを最大化させる必要があります。

Instagram はソーシャルコマースにこれでもかと力を入れていますし、メッセンジャーと決済の統合は直近でもアップデートが続いており、2021年8月末には、Messenger などの Facebook アプリから直接現金を受け取れる機能も発表しています。(入金が早いのがウリだそうです。わかってますねーw)

参考記事

 

あわせて、2021年7月末の第2四半期発表においてマーク・ザッカーバーグが Facebook Pay を以下のように言及しているとおり、

Commerce experiences are now accessible across most of our services and we have a full roadmap of deeper integrations that I’m excited about in the months ahead.

(このような便利な)コマース体験は、現在のところ我々のほとんどのサービスで提供可能であり、今後数か月間で、私が興奮するほどの、より深い統合のロードマップがあります。

https://www.facebook.com/zuck/posts/10113801385499621

よりソーシャルとコマースを綿密につなげていく方向に舵を切ったということなのでしょう。

今回の Shopify との提携により、Facebookの決済プラットフォームにはコマースという出口ができます。

Facebook Pay を利用するユーザーが多ければ、その体験を Shopify マーチャントでの買い物に適用していくユーザーは増えると考えられます。Facebook も、この体験を拡大するために他のパートナーとの提携を加速させていくはずです。

余談ですが、Facebook は、Facebook Pay で利用するカードや銀行口座番号を、ユーザーエクスペリエンスのパーソナライズ化や広告のターゲティングに使用しないとしています。また公聴会で詰問されないように対策もバッチリのようですね。(現在の情勢を考えれば当然ですが…)

決済プラットフォームは相互依存化へ

今回の Facebook Pay の拡大は、以前の記事で書いた Shop Pay の外部化のトレードオフだという見方もできます。

2021年の6月に、Shopify のマーチャントが Facebook の持つプロパティ(Instagram など) で Shop Pay の決済が可能になることが発表されていますが、それ以前からも、Shopify では自社のストアと同様のチャネルとして製品カタログを Facebook 上でアップできるなど、両者は提携を強化してきました。

参考記事

 

Shopify にとっては Facebook プロパティは一日あたり18億人以上がログインする強烈なマーケットですし、Facebook にとっては Shopify は自社の決済サービスの利便性を高め利用率を上げていくためにはどうしても欠かせないパートナーです。

Facebook Pay の初期のような Messenger で現金が送れるだけのサービスでは Facebook Pay がユーザーにとって優先順位の高い決済手段になるとは考えにくいため、普段の買い物で、何も意識せず使えるレベルにまで持っていくために、体験の手段の拡大と強化する必要があるということなのでしょう。

Facebook と Shopify、両者の思惑は一致しているのと同時に、お互いのリソースをうまく利用しあいながら決済プラットフォームでは競合関係にある、 Frienemy のような関係性が浮かび上がります。(それは Google にとってもおそらく同様ではないかと思います)

それぞれの巨人同士、お互いのリソースをうまく利用しあいながら決済プラットフォームでは競合状態にある、複雑な相互依存の関係性が浮かび上がってくる一方で、何となくですが、いずれかが覇権を取るというよりも、それぞれの利便性を活かしながら共存していくような未来も見え隠れします。(決済はB2Cだけではないですし)

ますますプラットフォーム間の相互乗り合いは加速していくように見えますが、決済という視点だけで見れば、どれだけのトランザクションを生み出せるか、その出口があるかどうかがポイントだと思います。

そういう意味で、Facebook Pay は Shopify というまたとない出口を見つけたことになります。今後の展開に注目です!