ウォルマートのスポンサー広告が、セカンドプライスオークションへ移行 〜品質を加味したリテールメディアへ

 

2022年6月6日、リテールメディアの牽引役として小売向け広告分野で強い存在感を示し続ける米ウォルマート(ウォルマートメディアグループ)が、自社の広告プラットフォーム Walmart Connect での Search Brand Amplifier(SBA ※) と Sponsored Products(SP) という2つの主力製品で、これまでのファーストプライスオークションからセカンドプライスオークションへの移行を開始しました。

※SBA は Amazon でいうところのスポンサーブランド広告と同じようなフォーマットで、検索結果の上部にバナー上に表示されます

 

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今回のオークションモデルの移行は以前からアナウンスされており、ウォルマートを利用するセラーの間では密かな話題になっていました。

ウォルマート内の検索数は1日あたり1,600万回以上(2020年1月時点)と言われており、コロナ以降はその回数がもっと増えていると想像できますので、今回のセカンドプライスオークションの施行によってウォルマート内広告のオークションが活性化すると、同社の広告事業にどれほどのインパクトがあるのか、注目です。

ファーストプライスとセカンドプライスの違い

ファーストプライスオークションは、オークション上で最高値を指した広告主が、入札額をそのまま約定額として支払うモデルです。他の入札競合に支払い価格が影響されない(意識できない)ので、ブラインドオークションとも呼ばれます。広告主は、広告の表示やクリックに対して支払える価格を入札する必要があるため、商品の利益率がオークションへ直接的に影響を与えます。

バーゲン期間でもない限り、サプライヤーや商品ごとに支払える広告費率が大幅に変動することは少ないため、販促目的の広告のみで構成されたモールのようなマーケットプレイスの場合、一般的にはファーストプライスではオークションプレッシャーが上がりにくいと考えられます。(価格が引き上がるダイナミズムが起こりにくい)

一方でセカンドプライスオークション場合落札者は競合他社(≒自分より下の広告)の状況に応じて設定した入札額より下回る金額を払えば済むことが多いため、平均単価の推移や競合状況を見ながら、より多くのトラフィックを獲得するために入札額に上方圧力をかけることが可能になります。

現在では、一部のプレミアム枠や招待制のマーケットプレイスを除いたほとんどの運用型広告がセカンドプライスを採用していますし、リテールメディアでも、eBay や Amazon は当初よりこのモデルを使用しています。ウォルマートもこの方式に倣ったかたちです。

セカンドプライスオークションの要=品質の計算精度

 
一般的なセカンドプライスオークションの定義は、「(1位が掲載であれば)2位の入札額をわずかに上回る額(日本円であれば1円など)を支払い金額とする形式」を指します。ですが、この形式だと検索クエリと商品のマッチング以外は入札価格のみが変数となるため、クリック課金の場合、メディアは RPM(Revenue per Mille:インプレッションあたりの収益)を最大化するレバーを持てません。

リテールメディアの多くはクリック単価制なので、仮に「マッチ度が高くて魅力的でない商品」が上位を占めた場合、期待されるクリック率が上がらないため、計算上の価格は高くても現実にクリックされにくいので期待収益が増加しないためです。

そのため、ウォルマートのセカンドプライスオークションでは、Google や Amazon などの他のプラットフォームと同様、単純な「1円以上(1ペニー以上)」形式ではなく、関連性(Relevancy)を考慮した設計になっているようです。

具体的に説明すると、以下になります。(Google 等の広告に慣れている方であれば理解しやすいかなと思います)

  • 落札したアイテムが検索クエリとの関連性が高い場合、広告主の支払う費用は「落札したが関連性が低い場合」よりも少なくなる可能性が高い
  • 広告主が支払う価格は、通常のセカンドプライスと同様に「入札額よりも低い」ことになるが、それだけでなく、「落札者の関連性が、その下の広告よりも著しく高い場合」、下の広告の入札額よりも低くなる可能性がある

 

オークションに品質を組み込むには、ある程度の精度を持つ予測モデル(少なくとも推定クリック率)を整備する必要があるため、ファーストプライスではオークションが活性化しないと分かっていながらこれまで踏み切っていなかったのには、システム構築に時間がかかっていたのかなという印象を受けます。

 
ウォルマートは、アメリカの広告ビジネスでトップ10プレーヤーになることを目指し「2025年までにメディア売上で100億ドルを超える収益を目指す」と宣言していることからも、Walmart Connect でのオークションの活性化は非常に戦略的に重要な一手であるはずです。

世界のリテールメディアはしばらく Amazon とウォルマートが牽引していくことになると思われますが、今回の Walmart Connect でのセカンドプライスを採用によって、リテールメディアのデファクトがほぼ出来上がったように見えます。ちなみにどちらも DSP をリリースして自社の外側に進出しようとしている点でも相似形です。

 

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2つの巨人によってリテールメディアはどのような発展を遂げるのか、引き続き注目していきたいと思います!