「State of Commerce」は、Eコマース運営の影の主役である、EC制作やアプリ開発、物流や在庫管理、集客などの現場を通じて、顧客や市場へ価値をつくりだしているスペシャリストの方々に焦点を当てるインタビューシリーズです。現場の最前線が肌で感じていることを自らの言葉で語って頂くことで、Eコマースの現在の輪郭を少しでも捉えることができればと考えています。 (インタビュー一覧はこちらから)
第2回は、前回に続きフラクタさんからです! 森田さんと同じく、フラクタを創業期から支える南茂さんにお話をお伺いしました。
※インタビューは2021年10月に行われました
株式会社フラクタ執行役員、One by One局共同局長
新卒で採用広報の制作会社に入社し、アシスタントを経てディレクターとして4年勤務。多くの制作パートナーと信頼関係を築く。フラクタの創業期にジョイン。デジタルとアナログを問わず、制作全体のディレクション、プロジェクト推進を実行する局の統括を担う。
おもにはメンバーを後ろからバックアップする役目が多いが、OMOを前提としたブランドの高速立ち上げをともに並走し具現化する、ミッションスペシャリストとしても活躍する。
人を大切にできる環境で仕事がしたい
ーー EC の現場をよく知る南茂さんですが、キャリアの最初から EC に携わっていたわけではなかったとお聞きしています。フラクタで現在のお仕事をすることになった背景や経緯をお伺いしたいです。
南茂:前職は新卒で入社した採用広報を企画する会社で、アシスタントディレクターとして編集の仕事をしていました。
ただ、あるきっかけで「人を大切にしてよい関係を築きながら仕事をしていきたい」と強く思うようになり、転職を考えるようになりました。
転職活動をする中でフラクタに出会い転職することになったのですが、代表の河野に会った時にその話をしたら「フラクタも同じ想いで経営している」と言ってくれて。実際にその言葉は嘘じゃなかったですし、今も心からそう思えているのでこうして働けています。
ーー なんとなくですが、転職のきっかけは想像できます。自分に嘘をつくというか、無理やり自分自身を説得させながら仕事しつづけるのはたいへんですよね。。。ちなみに転職後は採用広報から Web 制作(当時)へと業務内容が変わりましたが、ギャップはありませんでしたか。
南茂:現在はいわゆるディレクションの仕事を主に担当していますが、入社した当時は、AE(アカウントエグゼクティブ)がディレクションもしていて、社内にディレクターというポジションは存在していませんでした。
ですので私も最初は AE として営業に出ていたのですが、仕事をしていく中で『この会社にはより強い ”着地力” が必要だ』と感じました。制作の業務は変数が多いので、営業に複数のミッションを持たせた結果として進行が疎かになってしまっては本末転倒なので、依頼を受けてからの工程をしっかり引き受ける存在が必要なんじゃないかと考えたんです。
前職でディレクションを経験してきたこともあり、広がった話を収束させることは得意でした。なので、フラクタにおけるディレクターのポジションを私が作っちゃいました!
ーー 現在のフラクタさんの業務スタイルの嚆矢となったのは南茂さんだったんですね。
南茂:ディレクターの役割を一言で表現すると「すべてをうまく着地させる」です。収束させて、カタチにしていく仕事です。誤解を恐れずにいえば、経験がなくてもできる仕事だと思っています。
業務を表現しようとするとどうしても抽象的になってしまうのですが、私はデザイン以外はだいたいやっていますね。モノが出来上がっていくのを見るのが好きなので、それを裏方として支えるのは性に合っていると思います。
ーー それを肩書に落とし込むと「ミッションスペシャリスト」!
南茂:それは河野が考えました(笑)
軸は「ブランドのためになりたい」
ーー 南茂さんが入られてから、フラクタさんは徐々に Web 制作会社から EC の会社、そしてブランディングの会社へと変化してきたと思います。その変遷の中で何か「こう変わったな」と感じることはありますか?
南茂:うーん、基本的には変わっていませんね。
フラクタの価値は、単に EC サイトを制作するのではなくそのブランドの価値を世の中に広めること。入社時から「単なる制作会社として関わるだけだと、ブランドに対してできることに限界が出てきてしまう」という空気はありましたし、ブランドのためになりたいという想いは、軸として当初から今までずっと変わらないです。
ーー 提供するものが変わってきただけ。
南茂:そうですね。根幹は何も変わっていないのですが、それが徐々に磨かれてきているとは感じています。
時間とともに試行錯誤しながら築きあげてきたものがカタチになってきているというか、いい仲間も増えて、精度が上がってきている。よい意味での変化は感じています。
私個人としては、フラクタの想いを伝えていくのがディレクターとしてのもう一つの仕事だと思っているので、積極的に周りとコミュニケーションしたり、できるだけ言葉を尽くして説明することを、以前よりも意識して続けています。
Shopify はマーチャントを解放してくれる
ーー これ、森田さんにも同じ質問をしたんですけど、フラクタさんといえば Shopify を連想します。ブランディングやEコマースの成長を支援する中で、Shopify というプラットフォームをどう捉えていますか?
南茂:私にとって Shopify は『ある日突然現れた』という印象なんです。
私たちはあくまでブランドが主語なので、企業さん側が使いやすいものであれば本来手段は何でもいいと思っているんですけど、その観点で考えていくと Shopify にたどり着いてしまった、という感じでしょうか。
Shopify はとにかく使いやすくできていて、進めやすいです。フラクタ自身が『こういうものを作りたい』と思ってきたものがここにあったという感じ。
ーー 使いやすいというのは具体的にどんなところですか?
南茂:ベースにあたる部分が揃っているということですね。根幹がシンプルで必要なものが揃っていて、さらに拡張しやすく作られています。
要望の実現のためにカスタマイズを重ねた結果、エンジニアや職人技がないと運用できなくなってしまったシステムが結果的にマーチャントの皆さんの足かせになっているケースを見かけます。
Shopify は拡張しやすいと言いましたが、「変に拡張しやすい設計」ではないところが、信用できるポイントだと思っています。
決済や注文管理周りのアップデートは常に慎重ですし、Shopify Plus じゃないと決済周りはカスタマイズができません。これは『変えること』を大切にしているからだなと捉えています。変化させるところと守るべきところ、このバランスがちょうどよいので信用しているんです。
ーー 首肯しすぎてヘルニアになりそうです。。。柔軟性を担保しつつ、大きな事故に繋がりそうなところはちゃんと守られている。そんなイメージです。
南茂:エンドユーザーが使いやすいことが何より一番大切ですし、避けるべきはブランドさんがシステムに縛られて身動きが取れない状態です。
Shopify は使い方次第でユーザーを解放してくれるシステムだと感じています。
目的を実現させるためにシステムがある
ーー そんな Shopify の運用についてまとまった書籍『Shopify運用大全』では、南茂さんは第 2 章を担当されていますね。今おっしゃられた部分に繋がるようなお話はありますか。
南茂:私が書いた章のなかに『組織におけるECチームのかたち』というセクションがありまして、ぜひ読んでいただきたいと思っています。
この本を手にとってくださる方は、もう少し Tips というか、ノウハウ的な情報を求めていらっしゃるのかもしれないのですが、私が現場で一番気になっていることは、EC担当者に負担が集中しがちなこと。EC担当者って、とにかくやる事が多くて大変なんです。
ーー 同感です。他の仕事だったら職種が分かれているレベルの仕事を一手に引き受けて頑張っている担当者は多いと思います。構造的にマルチタスクになってしまうのはある程度仕方ないとはいえ、それを改善しないと未来はないと思います。
南茂:人間がやった方が早いことは人間がやればいいし、開発が必要であれば開発すればいいと思うんですが、
見渡すと、システムのために仕事しちゃっていることも多いと思います。
でも、これは断言しますけど、システムに使われたら終わりです!
ーー お、押忍!!
南茂:ブランドのためにやるべきことがたくさんある中で、よくよく見直してみたら「仕事のための仕事だったな…」というようなタスクが EC の現場には多いと感じています。
既存の業務やワークフローに固執せずに、何が最善かを考えながら柔軟に取り組んでいけるような環境があればいいなと思っています。特に EC の現場は変化が激しいので、常に本来の目的に立ち返りながらタスクの見直しをかけて、システムに使われるのではなく使いこなして、ブランドの未来ために一緒に仕事がしたいですね。
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EC を楽しい仕事にしたい
ーー そういった、本質に都度立ち返りながら仕事を進めていくにあたり、ECの現場に足りていないことや、これからすべきことって何かありますでしょうか。
南茂:少し話がそれてしまいますが、以前は自社でぜんぶ完結できる内製化こそ正義だと思っていたんですが、最近はそれぞれのプロフェッショナルを適切に頼った方がいいと考えるようになりました。コミュニティや外部チームを頼る。1人で悩まないでほしいなって。
ECはやることが多いので、チーム戦じゃないと戦えません。技術そのものよりも、誰かと協働するスキルの方が重要だと思います。適切に振って・頼るスキル。使い使われるためのテクニックを備えていく方がいいと思っています。それが結果的に限られたリソースを有効活用するということなのかなと。
若くて体力のあるうちは、優秀な人ほど「全部自分で!」となりがちですが、いずれ自分がディレクションする気持ちで臨むとよいのではないかと思います。人にはそれぞれ役割があるので、感謝しながら、1人ではなくチームで取り組んでほしいです。
ーー 1人で悩みながらがんばっている多くのEC担当者に届けたい言葉です。
南茂:ECに関わる人って、なぜか下に見られていることが多くないですか? 本当はすごいことをやっているのに。大切な役割なんだぞと声を大にして伝えたいです!
ちなみに、ECの現場は女性の方も多いのですが、業界全体ではまだまだ発言力が足りていないなとも思っています。
ーー EC の仕事に本来ジェンダーは関係ないはずですが、実際に目立っているのは男性が多いですね。
南茂:フラクタは女性社員も多く、皆さん細かく丁寧な対応をされています。私たちが自信を持って仕事をすることで、「ECの仕事って楽しい!」と思っていただきたいですし、そう感じてもらえるような仕事に積み重ねていきたいと思っています。
私たちはブランドではなく裏方ですので、地味なシステム仕事で面倒なことが多いと思われがちなのですが、そうじゃないです。モノが世に出ていくルートを作る仕事です。冷静に考えて、誰かの手にモノが届く仕組みに携われるってすごいことだと思います。
そのルートをきれいに舗装していく仕事だと、そう感じてもらえるように頑張っていきたいと思います。
ーー 南茂さんの現場は絶対に着地するということがよくわかりました。貴重なお話をありがとうございました!
編集後記
インタビューでも触れていますが、南茂さんが書かれた『Shopify運用大全』の第2章にある「組織におけるECチームのかたち」は、初めて読んだときに「熱」を感じました。
特に以下の何気ない一文に、編集を通しても隠しきれない強い想いのようなものを感じ、一度話を聞いてみたいなーと思ったことを憶えています。
そして何より、画面の向こうにいる顧客のことを想像し、最高の形でサービスを提供したいという想いが各々にあるかどうかが大切です。
『Shopify運用大全』P102
インタビューを通して、書籍を読んだときの直感が外れていなかったことをここにご報告いたします。
ECは総力戦とはよく言ったもので、ECが伸びれば伸びるほど、当たり前になればなるほど、現場のやることは肥大していきます。チームで仕事をしていくなかで、南茂さんのようなディレクションでプロジェクトを前に進めていく人のニーズはますます高まっていくのだろうなと、そんなことを思いました。ぜひまたお話をお聞きしたいです!
FRACTA