ブランドの伴走者たれ。技術を通じてブランディングを実装しつづける 〜 フラクタ 森田泰則さん #State-Of-Commerce Vol.1

「State of Commerce」は、Eコマース運営の影の主役である、EC制作やアプリ開発、物流や在庫管理、集客などの現場を通じて、顧客や市場へ価値をつくりだしているスペシャリストの方々に焦点を当てるインタビューシリーズです。現場の最前線が肌で感じていることを自らの言葉で語って頂くことで、Eコマースの現在の輪郭を少しでも捉えることができればと考えています。微力ながらEコマースの現在地が少しでもお伝えできれば幸いです。

第1回は、ブランドの立ち上げから、ブランド強化・DX・運用体制構築まで総合的にサポートする、Eコマースの分野では知らない人はいないのではないかと思われるフラクタを創業期から支える森田さんにお話をお伺いしました。

※インタビューは2021年10月に行われました


フラクタ 森田泰則さん

株式会社フラクタ ブランディング・テクノロジスト

Slerでシステムエンジニアとして Web サイトの開発・運用を行っていたなかで、デザイン・UXの重要性を感じデザインスクールを経て 2012 年に株式会社フラクタの立ち上げに参画。フラクタの提唱する「ブランドらしさのある購買体験」を実現するためのブランド設計を、テクノロジー・デザイン・UXの観点から支援する。

多くの業務を抱えるブランド担当者が本来やるべき業務に集中できるよう「無理しない Web サイトと、チーム作り」実現のため、情報発信や人材育成、制作コンサルティングを行っている。

デザインと仕組みの両方を満たせるような分野がEコマースだった

ーー キャリアのはじめは SE からだったとお聞きしました。私も新卒は小さな SIer からだったので、どういったきっかけがあったのか興味があります。

森田:以前は SIer で業務システムや Web サイトの開発をしていました。業務システムってちゃんと安定して動くのがあらゆることに優先するので、UI(ユーザーインターフェース)がどうしても後回しにされがちなんです。

 

でも、システムは人が使うものなので、画面は使いやすいほうがいいですよね。デザインの知識があればもっと見やすく、かっこいい画面ができるのにという想いが日に日に強まっていきました。デザインの学校に通ったりしながら試行錯誤しましたが、どうしてもエンジニアだけでできるデザインには限界があるなと感じまして。

 

仕組みを作るのは楽しかったので、であればデザインと仕組みの両方を満たせるような分野がないかなと思い、フラクタに参画しました。

ーー 私も 2000 年代前半に真っ黒な画面を作る毎日があったのでお気持ちよくわかります。。。当時のフラクタさんはいわゆるスタートアップですよね。SIer からの転職だと、ギャップがあったのでは?

森田:そうなんですよね。いい意味でのギャップは、お客さまとの直接のやりとりがあったことです。とても面白くて、新鮮でした。SIer にいた頃は、仕事がただただタスクをこなすだけになってしまっていて、お客さまとの距離が遠かったので。

 

ミーティングで何度も顔を合わせて直接やりとりして、一緒にうまい方法がないかなと考えたり、システム担当がいらっしゃるお客さまだと「ここからは自社でやっておきます」と言われたりして、、、こんな進め方があるんだーと衝撃を受けたりしました(笑)。とにかく対話を通じて一緒にものづくりしていくおもしろさを実感できたので、転職してよかったなと思いましたね。

商売の「軸」がすなわち「ブランド」

ーー 当時のフラクタさんは EC というより Web 制作のイメージでした。現在のフラクタさんはEコマースからブランディングへと業務領域が拡張していますが、どのような変遷があったのでしょうか?

森田:当時は制作ゴリゴリって感じでしたので、お客さまの難しいオーダーにも気合で対応していました。ただ、やっぱり無理な依頼には人かシステムか運用か、どこかに無理が生じてきてしまうんですよね。

 

頑張ればなんとかそれらしいモノはできるけれど、頑張った結果として複雑な実装になってしまったりして、「結局よくわからない」なんて言われることも多かったんです。

 

頑張ったのに関係者みんなが報われないのは課題だと社内でも話していて、やはり私が転職したきっかけでもある「デザインとエンジニアリングの掛け合わせ」を真剣に考えるべきだし、Web 制作の意味を俯瞰して、もっと広い視野でビジネスを考えていかないと辛いな〜と思うようになって、徐々にフラクタとしてのスコープや考え方を広げていくようになりました。

 

そこから現在のブランディングやEコマースの支援などにつながっていきます。アイディアがあればなんでもできるんじゃないか!と開き直ったのかもしれません。

 

あとは内緒ですが、システムってちょっと嫌だなって思っちゃったんですよね(笑)

ーー うーん、ちょっとわかります(笑)

森田:水は出るのが当たり前ですし、電気は点くのが当たり前ですよね。それと同じように、システムは「できて当たり前」じゃないですか。ちゃんと仕様書どおりに動いても誰にも褒めてもらえないけど、できてないところは指摘されちゃったりして、なんだか不遇の職だな〜と。デザイナーは「わ~すごい~」なんて言ってもらえるんですけどね(笑)

 

だから、単純なシステム屋さんといった役割ではなく、企業が成長するための総合プロデューサーのような立ち位置であって、その実現のために技術を活かす、というように活動軸を移さないといけないなと思いました。

 

現在は自社が標榜しているブランディングを、技術面からまとめていくというか、ブランディングにどうやって技術面でサポートできるか、解決できるかという考え方で仕事をしています。いきなり技術の話をするんじゃなくて、商品や運営のコンセプトや軸の話が先にあって、それを実装するためにどう技術を使うかという話をしていますね。

ーー その「軸」がいわゆる「ブランド」だということですね

森田:そうです。長くこの仕事をやっていると、目的というか軸にあたるものがないまま「とりあえず決まってるんで進めましょう」というプロジェクトに関わることがどうしてもありまして、なるべくそうならないように屋台骨にあたるような軸を持ちましょうと。

 

ただ「軸」だと伝わらないので、それを「ブランド」と呼び、「軸」をブラさないように続けていく活動のことを「ブランディング」と言い換えていると私は捉えています。

Shopify はスマートフォンみたいなもの

ーー フラクタさんといえば Shopify を連想しますが、ブランディングやEコマースの成長を支援する中で、Shopify というプラットフォームをどう捉えていますか?

森田:現在だと売れているECサイトでブログをやってないところは少ないと思いますが、10 年前、ECサイトをつくるためのシステムにはブログ機能自体がほとんどついていませんでした。

 

でも Shopify には最初からついていました。というか、我々がEコマースの支援をしていく際に「あったらいいのに」と思っていた機能の多くが Shopify には最初から実装されていたり、アプリで実現できる状態だったんです。

 

もちろん、あくまでブランドが主役ですので、その会社にとってよいもの、合うものを、と考えながら設計するので、常に Shopify が正解であるということではありませんが、さまざまなことをスピーディに試行錯誤しながら活用していくことができるブランドには非常に適しているのが Shopify だと思っています。

 

Shopify を何かに例えるとすれば、スマートフォンの本体ではないかと思うことがあります。やりたいことがあればアプリを入れればできる。Shopify も同じで、いろいろなアプリと連携することで、同じシステムの中でやりたいことがローコストで実現できる。スクラッチで開発するより圧倒的に安あがりですし、しかも早い。

ーー まさに「Retail Operating System(小売の OS ) 」だと。

森田:そうですね、まさにアプリを載せていく OS のような存在です。

 

しかもテーマが多く、海外デザイナーのデザインの品質も高いです。無理にヘッドレスにしたりゼロから作らなくてよいので、提案しやすいですね。スマートフォンの比喩でいえば、いろんなデザインの端末が最初から揃っているようなものです。

 

これで日本向けのテーマがリリースされたり、商習慣にさらに合うようなカスタマイズがしやすくなればもっとよくなるなと思っています。

ーー この流れで Shopify Plus についてもお聞きしたいです。フラクタさんは日本で数社しかいない Shopify Plus のパートナーの1社ですし、森田さんは『Shopify運用大全』の中で Shopify Plus の章をご担当されていました。

森田:Shopify Plus は Shopify の最上位プランです。お金があると「一番いいやつ下さい」と言いがちですが、実は Shopify Plus で劇的に何かが変わるというわけではなく、他のプランよりもできることがちょっと多いイメージなんです。

 

上位プランであればなんでもできると思われがちですが、いきなり大きな箱を持って持て余してしまうのではなく、機能をしっかり使いこなしてもらいながらステップアップしていただくことが大切だと思っています。あ、ID 連携( Multipass )だけは別ですけど。

 

書籍にも書きましたが「なんでもできる魔法の箱ではない」ので、Shopify Plus にすれば理想のECサイトができるわけではなく、あくまで構築や運用が便利になるプランだということは知っておいてほしいです。

Shopify運用大全 についてはこちら

ブランドの伴走者でありたい

ーー ブランドを技術面でサポートというお話をお伺いしてきましたが、最後に森田さんが見据えるEコマースの今後だったり、これからしていきたいことがあれば教えて下さい。

森田:方向性としては、ずっと「現場の味方」「ブランドの味方」でありたいと思っています。

 

実際、ブランドを体現している現場の人たちがシステムによって動いたり考えたりする時間が増えれば、結果的にそのブランドが盛り上がると考えています。そして今はそれができる環境が整ってきているとも感じています。

 

Shopify をはじめとした EC プラットフォームの進化によって、コードを一切書かなくてもデザインもシステムもポチポチすれば済む世界に徐々になってきています。一方で、すでに動いているシステムは大きくて複雑なものが多いですし、現場は広がり続ける業務で忙しいので、その恩恵が届いていないことが多いです。だからきちんと届けていく必要があると考えています。

ーー 届けていくためにはどんなことが必要なんでしょう?セミナーやメディア以外で、現場レベルに届かせる具体的な方法がもしあれば

森田:たとえば、ブランドの中や外に「ノーコードエバンジェリスト」みたいな方が必要になってくるのではないかと考えています。

 

Shopify の集客アプリひとつとっても、マーケティングと Shopify の両方がわかっている人が使えばうまくいきやすいですが、じゃあ誰でもが使えるかというとなかなかそうはなっていない。ノーコードはノーコードで使いこなせるスキルが必要です。

 

それぞれの方の専門領域の知見が、ノーコードという文脈でつながっていくための支援ができればいいと考えています。

ーー わかります。 Shopify はわからない、英語のアプリはむずかしそうというだけで尻込みしちゃったりとか。

森田:だから伴走者は必要ですよね。全部こちらでやるわけでもないですし、自社でぜんぶやってくださいと突き放すわけでもないです。ブランドが自走できるように支援していきたいですし、その役割が自分にも合っているなと思います。

ーー 私も似たようなことを目指しているつもりなので、今日のお話は背筋が伸びました。貴重なお話をありがとうございました!


編集後記

このインタビューのために「森田さんのことを知らないと!」と思いインターネットの海に散らばる森田さん情報を求めて検索しまくった末、お仕事と同じくらいチョコレートの情報が多いことに気づきました笑

特におしゃれなチョコレート写真が並ぶ Instagram にあった『Life is short, Eat dessert first!』(人生は短い、まず初めにデザートを食べよう!)という Jacques Torres Chocolate の標語は、森田さんが周りから頼られている理由というか、ときにシリアスなシステムという仕事に従事されているからこそ必要な森田流の「余裕」のようなものを感じました。

チョコレートが好きすぎるゆえにカカオツリーのオーナー権も持っていたというエピソードが深堀りできなかったのが心残りです。。。

ご自身のブランディングまでバッチリで、ブランディング・カンパニーをまさに体現されていらっしゃるなと思いました。またぜひお話をお聞きしたいです!

FRACTA