あらゆるプラットフォームはコマースを志向する
Google や Facebook のようなプラットフォームは、過去10年間だけ見ても何度か大きな変化に直面し、その度に乗り越えて大きくなってきました。そして、乗り越えたからこそ現在も数十億人のユーザーを抱えられているのだと思います。
大きな変化とは、例えば2010年代前半に起きたパソコンからスマートフォンへの急速な主役交代だったり、ここ最近ではプライバシーやターゲティング技術に対する政治や法とのバランス調整が該当するでしょう。(ここは乗り越えたというより思いっきり現在進行系ですが…汗)
そして何より、2020年以降に世界中の人々が強いられた行動の規制や変化によって起きた、可処分時間の急速なオンラインシフトが挙げられます。購買行動も同時にオンラインへ移行したことでEコマースはたった1年で数年分の成長カーブを描きました。そのカーブに合わせるように、億単位のユーザーを抱える各プラットフォームもコマースへの投資を今まで以上に強化しています。
奇しくも、Facebookが先日出したブログポストの中で、自身を
In short, Facebook and Instagram are fast becoming a destination to buy and sell and…
“要するに、フェイスブックとインスタグラムは急速に売り買いの場所になりつつあり…”
https://www.facebook.com/business/news/building-the-next-era-of-personalized-experiences
と表現したように、今やほとんどのプラットフォームはコマースプラットフォームを志向し、コミュニケーションとトランザクションの境界線を積極的に曖昧にしようとしています。発表される新機能のほとんどが何かしらショッピングに関わるものになっているほどです。
現実世界の拡張としてのコマース
矢継ぎ早にリリースされるコマース周りの機能で、各プラットフォームに共通しているキーワードは、「拡張」です。(「接続」と言い換えてもいいかもしれません)
Shopify の Shop Pay が Google や Facebook と横断的に決済を繋いだように、各社は自社のプラットフォーム内でユーザーの動きを完結させるのではなく、外部のメディアやシステム、プラットフォームと相互に機能的に接続(機能をリバンドル)することで、ユーザーの利便性を上げ、囲い込むのではなく囲い込まれることを目指して動いているように見えます。
そして現在、その動きはスマートフォンのレンズ(カメラ)へと拡張してきています。各社のリリースを読んでいると、まるでレンズがオンラインと現実世界の接点となっているような、SFチックな世界観を覚えてしまうほどです。
以下でそれぞれの動きを紹介します。
Pinterestのレンズビジュアル検索ツール
Pinterestは、2020年6月にレンズとピンを接続させた「Shop with Lens」を公開しました。(もう1年前!)
写真をスナップもしくはアップロードすると、その写真と一致した(と Pinterest が判断した)ショッピング可能なピンフィードが表示されたタブが立ち上がるという機能です。
参考リンク:
Pinterest はこの機能を「現実世界=オフラインのインスピレーションを(Pinterestでそのまま買える)オンラインのアイデアへとつなげるツール」だと表現しています。
AR(拡張現実)ならぬAC(拡張コマース)ですね!
Instagramもレンズ拡張を開始
そして、同様の機能を Instagram がテスト中であることが先月(2021年6月)発表されました。
参考リンク:
レンズビジュアル検索が Instagram に実装されると、Pinterest 以上の瞬発力が出そうです。
Pinterest は最近ショピングリストというブックマーク機能を発表しているように、どちらかというと比較検討と衝動買いのバランスを取り、どんなユーザーにとっても使いやすい機能を充実させる方向を模索しているように見えます。(なので個人的に好感持ってます)
一方で、Instagram のように瞬間と感情が支配する世界では、レンズビジュアル検索こそソーシャルコマースとの相性がよいと思います。視覚的な情報がショッピングカートとダイレクトにつながると、衝動的なトランザクションはより加速するだろうことは容易に想像できます。(利用者の規模も Instagram の方が上ですし)
Googleレンズを通じたショッピング
そしてトリはやはり Google です。レンズを通じたショッピング機能は、以前の記事でもご紹介しました。
ソーシャルという意味では(YouTube を除いて)他のプラットフォームに劣る Google ですが、やっぱり OS を持っているのは強いです。Androidスマートフォンがある限り世界人口の何割かは常に押さえていて、何十億という端末で撮影・保存された画像がすべてインターネットを通じてショッピングの入口になるということですので。
また、Google はマーチャントセンターという世界最大級の自律的に更新し続ける商品データベースも持っていますので、そのデータベースと世界中の画像とを関連づけて学習し続ける環境を既に構築しているというのはよくよく考えると驚異です。データの幅と精度だけでいえば、Google に追いつけるプラットフォームはおそらく出てこないんじゃないかとすら思います。
※個人的には、これこそが人工知能に投資する分かりやすい意味だなあと思ったりします。画像の同定だけとっても応用範囲広いですし
ブランド、マーチャントはどうするべきか
「商品を知るきっかけや購入に至るルートが多様化している」なんてわざわざ言わなくても自明のことのように思いますが、各社がレンズの拡張に投資することによって、コマースの起点と終点を結ぶ線(いわゆるカスタマージャーニー)はよりいっそう複雑系になります。
これまで特定のメディア、広告枠に依存していたオンラインとオフラインの接続は、今後あらゆるカメラデバイスから可能になるでしょう。わざわざ繰り返し繰り返し「複雑ですよ」と強調しないといけないくらい、近い将来のコマースマーケティングは複雑になるはずです。
Shopify は Shop Payの外部化の発表の際に、以下のようなコメントを残しています。
Shopify is convinced that e-commerce merchants will want to maintain bespoke websites at the core of their businesses. But many of them will opt to sell across multiple platforms, including social media, and that increased complexity should make Shopify’s system even more valuable, he said.
“You now need to reconcile inventory across eight or nine channels. You now have to handle shipping and fulfillment across eight or nine channels. And so as the complexity increases, the value of using Shopify as the central retail operating system also increases.”
”Eコマースの事業者は、ビジネスの核にオーダーメイドの自社サイトを置いておきたいと考えている、とShopifyは確信しています。しかし実際はソーシャルメディアを含む複数のプラットフォームで販売しなければなりません。こういった複雑さが増すほど、Shopifyのシステムの持つ価値は高まっていきます。(とHarleyは語った)”
”そうなると、8つや9つのチャネル間で在庫を調整する必要がでてきます。つまり、8つや9つのチャネルにわたる出荷とフルフィルメントを処理する必要があるということです。このような複雑さが増せば増すほど、ShopifyをコマースOSとして真ん中に据えていく価値が高まります。”
https://www.digitalcommerce360.com/2021/06/15/shopify-expands-ecommerce-pact-with-google-and-facebook/
「ECの複雑さが増せば増すほど、Shopifyは有利になる」という発言は、複雑さが増せば増すほど、データの集中管理をどこかで行わないといけないということの裏返しだと思います。SNSをはじめとした販売チャネルが多様化すればするほど、物流拠点が増えれば増えるほど、中央で管理する仕組み(central retail operating system)がないと日々の運用は機能しなくなってしまいますから。
「複雑さが増せば増すほどOSが有利になる」は、広告も同じ道をたどってきました。 現実は常に複雑な方に働くので、処理するためにはどこかでその複雑さを外部化しないといけません。広告の場合はインターネットによってメディアの増加が手動管理の範囲を瞬時に越えたので機械化が急速に進み、その結果 Google が短期間で覇権を握ることになりました。コマースの場合は(Amazonを除けば)それが Shopify になる可能性が高い、ということなのでしょう。
起点の多様化によって、ショッピング広告を実施するかどうかはともかく、Eコマースにおいてデータを集中管理する意義はより高まりました。商品データベースの整備や、それらをさまざまな販売チャネルにフィードしていくという仕組みを使わないという選択肢がますますなくなっています。管理コスト以前に、そもそも発見されにくくなるからです。(そして発見されたとしても、チェックアウトと接続できなければ他で買われてしまいます)
データの整備にはさまざまな方法がありますが、やはり手っ取り早いのは Google のマーチャントセンター対応だと個人的には思います。
筆者は以前から ECzine さん等で何年もずっと同じことを言っていてさすがに芸がないなと思いはじめていますが、一方でやはりデータを活用しているブランドとそうでないブランドとの間で、明らかに差が広がってきているのを見てきました。
参考リンク:
現在では Google マーチャントセンターはほとんどのショッピングカートが対応していますし、自社開発のシステムであっても理屈としては同じです。
現在は無料の商品リスティングもあり、利用のハードルは下がっていますし、Google のデータベース項目は既にEコマースにおけるスタンダードになっているので、これに対応できさえすれば他のシステムやチャネルでも応用が利くはずです。未実施のブランドさんはぜひ騙されたと思ってトライしてみてください〜!