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Amazon広告躍進の根底にある、ACOSとIPIという指標が意味するもの

Amazon広告の伸びが止まらない

コロナ禍以降のEコマースの進歩については今さらわざわざ説明するまでもありませんが、中でも Shopify や Amazon のようなコマースプラットフォームの急激な成長は、小売の主戦場がオンラインに移ったことによる需要の急騰に合わせて、新たに販路をオンラインに求めるブランドや、よりオンラインの販路を拡大するマーチャントも同時に増えたことによって実現しているものだといえます。

特に Amazon は、自社のモールからの収益だけでなく、広告の大幅な成長によってもその存在感を増しています。

参考リンク:

 

2021年7月29日(日本時間7月30日)に行われた Amazon の第2四半期の決算発表で、広告収入が含まれる「Other」カテゴリの売上が79億ドル以上となり、前年同期比で87%増加したことが明らかになりました。(「Other」カテゴリのほとんどが広告によるものだと言われています)

コロナ禍での急速な広告需要の伸びがはじまったのは、ちょうど今回から1年前の2020年の第2四半期(4-6月)が該当します。(その前月の3月までは必需品優先で倉庫在庫を強制的に管理していたため広告費はそれほど伸びていないためです)

その急増した前年同期と比較して2倍近く伸びているのは一言でいえば驚異ですし、かつ今年(2021年)の第1四半期(1−3月)と比較しても10億ドル以上成長しています。ちょっとヤバいですね。。。(語彙)

これがどれくらいすごいかというと、例えば Twitter の年間広告売上が約32億ドル(2020年実績)ですので、Amazon は「Others」カテゴリだけでそれをちょうど5週間ほどで達成するようなイメージです。つまりTwitterを10個集めてやっとAmazonの「その他」になれるということです。。。ヤバいですね。。。(2回目)

広告ビジネスは Amazon.com の利用層の厚さがガソリンになっていますが、過去18か月間に世界中で5,000万人の新規プライム加入者があったとのことで、Amazonアカウントの利便性が高まれば高まるほど、広告も強化されていく構造はしばらく変わらないのではないかと想像できます。広告の機能そのものも急速に進化していますし、広告枠も増えています。次の四半期以降も強烈な上昇率になることはほぼ間違いありません。

広告枠は実際に増えている

Momentum Commerce が出している「Amazon Brand Index」のデータによると、Amazonのスポンサープロダクト広告は、現在Amazon内で行われる検索結果の40%以上をカバーしているようです。3年前は20%未満ということなので、広告枠は3年で2倍に増えているということになります。

参考リンク:

 

これは言い換えれば、広告を利用しないとスマートフォンやアプリでは自社製品がATF(Avobe-the-fold いわゆるファーストビュー)にほとんど表示されないことを意味します。

データを見る限り製品カテゴリごとに広告の占める割合は違うようですが、これは要するにそのカテゴリ内の広告主の競争率の差だと考えられます。たとえば冷凍食品や大型家電のような Amazon の倉庫に在庫を抱えにくい(FBAで管理しにくい)ジャンルは必然的にオークションプレッシャーが下がるので広告のカバレッジも低くなり、広告上では同じブランドやマーチャントの製品が並ぶ可能性が高くなります。

以下の図は Amazon のアルゴリズムを端的に表した図ですが、ベン図の上の部分である「Inventory」の部分が把握できないものはオークションでも上位に上がってきにくい、ということが言えると思います。

参考:Marketing on Amazon in 2020 [Report] | State of Digital

近年、Amazon は有力なブランドにはストア(ストアフロント:いわゆるブランドページ)の作成を推奨してきていますが、FBAにならずに Inventory が把握しにくい場合でも、ベン図の左側である Amazonストア(ブランドページ)の充実によりAmazon内の表示がリッチになっていくという設計になっていると想像できます。

参考リンク:

 

↑上記は、Amazonのセラー向け製品を扱う Jungle Scout 社のレポートですが、それによると 2021年のAmazon広告の77%はスポンサープロダクト広告で構成され、スポンサーブランドは全体の20%程度になるとのこと。

2018年から2021年の約4年間の間にAmazon広告は急速な成長をしていますが、その間にスポンサープロダクト広告をブランドとディスプレイ広告が追い上げているという構図です。成長率でいうとスポンサーブランドが一番大きいということですね。実際、これまでは検索結果の上部のみでしたが、検索結果のあとにも表示されるなど、配信量が急激に増えているのはAmazon広告運用者であればご存知かと思います。

ACOSについて

Amazon は売上がオーガニックのアルゴリズムにも影響します。端的にいえば、(関連性が高いという前提で)売れている商品がサイト内で優先的に表示される仕様です。

ただ、仮に売れ筋商品だったとしても、在庫が切れていて販売できないものは上げられません。売れないことによる機会損失だけでなく、売れる可能性があった商品の表示機会も奪うことになるので機会の二重のマイナスになるためです。

Amazon広告の管理画面では、一般的に広告業界で使われるROAS(Return on Advertising Spend:広告費用対効果)ではなく、ACOS(Advertising Cost of Sales:売上あたりの広告費率)が使われます。ROAS と ACOS は逆数の関係にあるだけで意味的には同じはずですが、ACOS の方が広告は販売の原価であるというハッキリした表現になります。

Amazon が ROAS ではなく ACOS という指標を採用している背景には、Eコマースにとって販売コストは広告費だけではない、という当たり前の認識があることに起因するのではないかと思います。広告費のみならず、在庫管理コストやフルフィルメントコストなど、売上には複数の原価が発生するからです。(しかもその割合がけっこう大きい)

参考リンク:広告費売上高比率(ACOS) – Amazonセラーセントラル

コマースでは明確に利益率が算出できますので、すべての販売コストをその範囲内に収めなければ利益はでません。アパレルなどが在庫処分として季節外れの商品をセールにして出すのは、粗利を圧縮してもいいから売りさばかないと、在庫管理コストが高くついて持っているだけで赤字になってしまうからですね。(逆に倉庫管理コストが低ければ通年で売ることもできます)

IPIという指標

広告側だけの事情で考えれば広告費はシンプルに ROAS で表現するのが一般的ですが、ACOS は、Eコマースにおいて、ROASは指標の一部にすぎず、マーチャンダイジング、包装、倉庫保管、フルフィルメントなどのさまざまな要素が運用に組み込まれていることを示唆しています。

だからこそ、Amazon はセラーに IPI(Inventory Performance Index:在庫パフォーマンス指標)という指標も提供しています。これはマーケティングにかかる費用だけでなく、倉庫保管やフルフィルメントのコストも考慮に入れて販売のデータマネジメントをしており、その結果が広告にも影響するという証左でもあります。

参考リンク:在庫のパフォーマンス – Amazonセラーセントラル

別の言い方をすれば、倉庫搬入から売上、配送までをすべて把握できているからこそ、Amazonは広告のパフォーマンスも最大化できる(余計な広告は出さずにマーケットプレイス全体での収益性を最大化できる)ということだと思います。実際、Amazon広告では在庫がなくなると強制的に広告が止まりますし、在庫が入る予定がない商品は表示されにくくなりますので、IPI を維持することは販売パフォーマンスに直結します。

倉庫の在庫がスムーズに流れ、かつ一定の在庫量を常に維持するということは、Amazon内の1インプレッションあたりの収益性を向上させるために重要な要素です。それによって有料とオーガニックの両方の収益性が高くなるようにAmazon内の表示は最適化され、マーチャントの収益性も確保されるという構造になります。

Amazonにとって広告データは、もはや広告に使用するだけではなく、在庫やフルフィルメント、(そしてよく批判されるようなプライベートブランドの開発)にとって重要なデータなのだと思います。IPIの高いブランドの成果がよい傾向にあるのも、こういった背景があります。

改めて、上記のAmazonのアルゴリズムを表現したベン図は、3つの円が相互に関連していると理解できます。

現在の企業価値は広告の伸びが説明変数

証券会社のアナリストも、Amazonの株価の説明に、広告が AWS と双璧になると説明しています。

 

Source: BMO Capital Markets Amazon target price estimates

広告の伸びはもちろんリテールビジネスが土台にあるからですが、成長のアップサイドとして期待されているのは広告である、ということでしょう。消費者のデジタルコマースへのシフトと広告との相性が非常によいため、現在の構造が維持向上される限り、広告は小売ビジネスの約5倍近い価値があると推定されています。もしかしたら AWS を抜くかもしれません(まだ「Other」なのに!)

参考リンク:

 

Google のような広告のプラットフォーマーが Amazon を驚異だと考える背景には、Eコマースに関わるあらゆるデータを Amazon が握っており、かつその中の一部(購買や在庫など)のデータは Google が直接的に持ちにくいものであるという理由があります。そしてそのデータがそのまま勢いの差に繋がっているからでしょう。(だからこそ Shopify との提携もあるわけですし)

コマースの成長は自社サイトだけでなくモールや実店舗との連動が欠かせませんが、ここまで Amazon の仕組みができてくると、ブランドの成長戦略に直接関わってきます。Amazon の広告ビジネスはコマース全体に強く影響すると言っても過言ではありません。引き続き注目していきたいと思います。