GoogleがShopifyとの提携を強化 〜コマーステックが行き着く未来とは

2021年5月18日(日本時間で5月19日)、Googleは毎年開催されるI/Oカンファレンスの中で Shopify との提携強化を発表しました。Shopify のマーチャントがGoogle とのデータ統合をよりシームレスに行うことができ、検索等の各サービスを通じて消費者にリーチしやすくなるとのことです。

Shopifyのマーチャントは世界中で170万を超えるといわれており、Googleのプロパティでは1日あたり10億回もの「ショッピングジャーニー」があるとされています。両者の連携はShopifyマーチャントのみならずEコマースにかかわる多くの事業者に影響を与えることになるでしょう。

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Googleのコマース投資のこれまで

コロナ禍でEコマースは非線形の伸びを示しましたが、Googleはそれよりずっと前から、過去10年以上にわたり長くコマースに力を入れてきていました。特に2010年の「Google Shopping」開始以降は、検索やショッピング、動画といった自身の強力なプロパティと商品データの連携を強化しており、広告プロダクトで最も力を入れていた分野はコマースだったといっても過言ではありません。

なぜコマースに力を入れてきたかといえば、理由はシンプルです。Google の主戦場であるインターネット広告では、以前から小売(Retail)が、自動車(Automotive)や金融(Financial Services)といったメジャーカテゴリを大きく凌いで業種別の首位を担っていましたし、その小売市場を従来の検索広告やディスプレイ広告以外でマネタイズする手段として、ショッピング広告(2011年開始)が一定の成功を収めたからだと思います。

2015年の時点ですでにダントツ1位の市場

2019年にはそれまで広告の掲載が必要だったマーチャントセンターを米国とインドで無料化し、2020年4月には全世界に適用しました。無料化以降はマーチャントセンターに登録された商品カタログの数は70%増加、参加するマーチャントの数も80%増加したそうで、裾野の拡大への力の入れようが伝わってくる数字です。

今回発表された Shopify との提携もこれが初めてではなく、2020年10月(米国では4月)には Google の無料ショッピングに Shopify から連携できる公式のアプリも公開されています。「シームレスな連携」はこのときからすでに謳われていました。

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Shopify連携の強化と、ねらい

では、なぜこのタイミングで(一見すると今までとさほど変わらないような)リリースなのでしょうか。

I/Oカンファレンスの中では詳細が明らかになっていませんが、公開された他の機能のサマリーからリリースの意図を探ることができます。

まず考えられるのは、単純な機能の改善です。先の発表記事の中には以下のような表現があります。

“we announced that we’re expanding our partnership with Shopify, introducing a new, simplified process that will let Shopify’s 1.7 million merchants feature their products across Google in just a few clicks.”

Shopifyの170万のマーチャントが、たった数回クリックするだけでGoogle全体に商品を掲載できるという、シンプルなプロセスを新たに導入します。

https://blog.google/products/shopping/more-ways-to-shop

言い換えれば、「今までよりシンプルにしたよ〜!みんな使ってね〜!」ということです。この一文により、これまではプロセスが複雑で(あるいは引っかかるポイントがあり)、接続しようとしてもできなかったマーチャントが多かったことが想像されます。

筆者は複数のShopifyアカウントを保持していますが、ほぼすべてのショップでGoogleマーチャントセンターに接続はしているものの、純製アプリ経由の接続はわずかです。(理由はいくつかありますが、既に構築済みのアカウントにとっては必ずしも純製はシンプルだとは言えない、と感じます)

何らかの理由でGoogleに接続できない Shopifyマーチャントが多ければ、結果的に Google の持つたくさんのアセット上のそれらのマーチャントが扱う商品が登場することはありません。広告の機会も増えず、ユーザーにとっての利便性は上がらず、ひいてはショッピングの起点の位置を他のプレイヤーに取られることになってしまいます。

他のプレイヤーとは、言わずもがなAmazonです。

CivicScience が2020年5月に行ったサーベイによると、回答した 2,200人の米国人の約半数(47%)が Amazon をショッピングのスタートページとしているとのこと。この状況が続く限りGoogleにとっては逆風が続くのは明らかです。

参考:https://civicscience.com/most-americans-still-start-with-amazon-before-google-for-product-searches/

2020年の春以降、Eコマース流通総量が大幅に増えていることに疑いの余地はありませんが、ショッピングの起点としての位置でAmazonがGoogleに大きな差をつけているということは、つまりそのままトランザクションでも大きな差がついており、さらに広がっているということの証左でもあります。

Amazon は2021年第1四半期の広告事業で前年同期比で77%増を記録したと報告しています。Google の背骨である広告事業を脅かしていることは間違いありません。ショッピングモールの巨人に対して、Shopify との連合軍でオープン戦略を仕掛けていく Google という構図が見て取れますね。

ユーザーにとって、より便利な体験を

接続するマーチャントが増えても、Googleのプロパティを利用するユーザーが「これは便利だ」と思わない限り利用は増えませんし、過度な機会の創出はユーザー体験には逆効果になる可能性すらあります。

そこで Google は、単純な広告枠ではない、アフィリエイトや比較サイトとしての役割を各プロパティに持たせようとしています。

“For instance, one of the most popular ways people take note of things they like is by taking a screenshot — but it’s not always easy to take action on those screenshots afterward. Now, when you view any screenshot in Google Photos, there will be a suggestion to search the photo with Lens, allowing you to see search results that can help you find that pair of shoes or wallpaper pattern that caught your eye.”

たとえば、好きなことをメモするのにスクリーンショットを撮ることは多いですが、後でそのスクリーンショットをもとに行動に移すのは必ずしも容易ではありません。そこで、Googleフォトでスクリーンショットを表示すると、Googleレンズで写真を検索するように提案されるようにしました。これによって、目を引いた靴や壁紙のパターンを見つけるのが非常にしやすくなります。 

https://blog.google/products/shopping/more-ways-to-shop

Googleレンズによって、あらゆる画像がショッピングの入口になるということです。

ショッピング広告がテキスト→商品の接続、TrueViewショッピングや YouTube連携が動画→商品の接続だとすれば、スクリーンショット(Googleレンズ)はカメラ→商品の接続だと言えます。画像を含めたあらゆるメディア(他社のメディアであったとしても!)が商品との接触機会になり、それらがスマートフォン経由で常に発生し続け、それをAI(人工知能)が膨大な商品データベースとの関連性を学習し続ける、、、何だかSFみたいな世界観です。

ですが、これってすでに起こっていることなんですね。。。

このような一連の進化を、Google はナレッジグラフを応用したショッピンググラフ(Shopping Graph)という概念でまとめています。常にこの瞬間も製品情報はアップデートされ、ユーザーは常に最新の情報を参照でき、いつでも購買までつながることができる世界です。なんだか Google が世界最大のアフィリエイトプロバイダーに見えてきました。。。

加えて、Googleは比較サイト的な役割も拡張しようとしています。 先日ひっそりと「Best things for everything」というサイトをオープンしていますが、これはマーチャントセンターをメディアとの接続だけに使うのではなく、メディア(比較サイト)そのものになってしまおうという試みに見えます。

参考リンク:

UIを見ると分かるとおり、「マーケットプレイスのみのAmazon」という感じですね… 節操…

 

現在はアメリカ国内の商品のみのため、今後各国に展開されるのかは不明ですが、とにかくユーザーの利便性と接触機会を最大限にしようという意図だけは強く伝わってきます。

なお、Google は Shopify のみならず Sephora などのポイントプログラムと Googleアカウントをリンクすることでユーザーごとに最適な購入経路を表示し、モールに依存しない D2C化を支援するとも表明しています。ポイントプログラムはメタバース的概念と相性がいいので、個人的にはこの世界観には一口乗りたくなっちゃいます。 

すべてをマーチャントセンターへ。そのための手数料無料

今回の発表で感じたことは、やはりGoogleにとってのマーチャントセンターの重要性です。

Google はデータの集積がどのように情報化して利益を生んでいくのかを世界中のどのプレイヤーよりも理解していますし、現在のコマース周りの施策はすべてマーチャントセンターを軸に設計されています。マーチャントセンターに情報を集める構造をつくるために、あらゆるアップデートが行われている、とすら言えるのではないかと。

言い方を変えれば、マーチャントセンターがコケる=Googleの敗退を意味します。だからこそ、Googleの無料ショッピングを通じたトランザクションに対する決済手数料を販売事業者から請求しないという現在のプログラムは今後も継続していくのではないかと考えられます。

参考リンク:

 

ちなみに Facebookショップの手数料は 5%(8ドル未満の場合は40セント)、eBay は 10%(最大750ドル)、Amazon の小口セラーは1点あたり99セント(日本は1点あたり100円)+総額に対する販売手数料がかかりますので、他のプラットフォームでは利益を出すのが難しいマーチャントでも、Googleとなら生きていけるわけです。

どちらにシェアをとってほしいか、販売者の側からはすでに答えは出ているといえます。ユーザーがどちらを選ぶかは別にして。

ここから数年のあいだに、Eコマースの勢力図はどのように変わっていくでしょうか。引き続き目が話せません。新しい展開が見えてきたらまた記事にしたいと思います!