Shop Pay の外部化がもたらす意味について 〜決済とプラットフォームビジネスの要諦

Shop Pay がいよいよ Shopify の外へ

2021年6月15日(日本時間 6月16日)、Shopifyは、自社のチェックアウトシステム「Shop Pay」をFacebook(Instagram)とGoogle を通じて販売するすべてのマーチャントに開放すると発表しました。これにより、Facebook/Instagram は2021年夏頃から、Google では2021年の終わりまでに、Shop Pay を利用した決済が可能になります。(まずは北米からで、日本での展開は未定)

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Shop Pay は Shopifyマーチャントを跨いでユーザーの情報を保存できますが、その利便性を享受するには(これまでも他のチャネル経由で利用可能ではあったものの)あくまでShopifyマーチャントである必要がありました。今後は他のショッピングプラットフォームの利用者であっても、Instagram や Google を経由した取引で Shop Pay が利用できるようになります。

今回の発表は、2021年5月末に発表された Google との提携拡大の正式版のような印象です。以下の記事でも書いたとおり、両者にとってメリットが明確な提携であり、Eコマースの決済分野にとっても大きなインパクトがあります。

参考記事:

 

Shop Pay の外部化がもたらすもの

Shop Pay の最初のパートナーである Facebook/Instagram、Google の2者がもつボリュームは果てしなく、Facebookプロパティには一日あたり18億人以上がログイン、Googleプロパティ全体では一日あたり10億回のショッピングセッションがあります。オンラインでの購入がスタンダードになるにしたがって、この数はますます増えていくと予想できます。

これらの膨大な量のトランザクションが、使用しているコマースプラットフォームに関係なく提供されるとなれば、ユーザーが Shop Pay を利用する機会は一気に増えるはずです。ユーザーにとっても、毎回クレジットカード情報を入れずに済む決済手段が増えれば利便性は高まります。便利になればなるほど(あるいは便利のハードルが上がって他のサービスが不便だと感じれば感じるほど)、Shop Pay が利用可能なプラットフォームを通じた購入体験は向上し、そのプラットフォームを利用する意味が強化されます。

また、Shop Pay は他の決済サービスより70%高速で、コンバージョン率が1.72倍高いと言われています。モールに集客を依存しているブランドや、他の決済手段を利用しているショップにとって、今回の発表はパートナーチャネル(この場合は Instagram や Google )を利用する明確なインセンティブになると考えられます。コンバージョン率が高く ROI が見合うチャネルになれば、ショップは徐々に投資を増やすので、結果的にそれはパートナーにとっても有利に働くことになります。まさにWin-Win-Win!

 

図にするとこんな感じでしょうか。ザ・三方よし!

 

「Shop」アプリという影の立役者

Shop Payの外部化のもう一つの立役者は、「Shop」アプリだと思います。他の決済サービスよりもShop Pay を使うメリットは「Shop」アプリと統合されていることだと考えるからです。

「Shop」は以前は「Arrive」と呼ばれていたもので、購入した商品の配送トラッキングや、履歴に基づいたプロダクトフィード、購入ブランドの詳細を調べたりできる Shopify の純正アプリです。もちろんワンタップで Shop Pay 経由で商品を買うこともできます。

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「Shop」のユーザーは増えており、Shopify はすでに「Shop」が4億3000万件以上の注文をトラッキングしているとコメントしています。日本はヤマトさんをはじめとして物流が超優秀なので配送トラブルを意識することは他の国に比べると少ないですが、それよりも劣る配送網と広い国土・脆弱なインフラの国でこそ「Shop」の果たす役割は大きいでしょう。

Shop Pay の外部化によって「Shop」自体の利用が拡大すると、それはそのまま Amazon Pay と同じような利便性を獲得することになります。購入体験がショップを跨いでシームレスになることで、ユーザーの利便性はますます高まります。(PayPal とかは大変でしょうね…)

余談ですが、Shopify の決済の裏側は Stripe で、その Stripe へ投資している最大手の一つが Shopify です。マーチャントへの融資サービスの強化も含めて、Eコマースという大きな出口を持つ Shopify の決済分野での発言力は日増しに高まっていますね。

チャネルの複雑化は、Shopifyにとって有利

最後に、今回の発表の場で、Shopify 代表の Harley Finkelstein さんがあることを繰り返し強調していたのでご紹介します。Shopifyというコマースプラットフォームや、ECをはじめとしたオンラインビジネスを考えるうえで示唆に富む発言だったので、一部を抄訳してみます。

参考記事:

 

Harleyさんが繰り返し強調していたこととは、Eコマースの複雑さが増せば増すほど、Shopifyは有利になるということでした。SNSのようなチャネルが多様化すればするほど、Shopify のようなプラットフォーム(彼らは「小売のOS」と呼んでいます)は価値が高まり、スイッチングが難しくなっていくということです。

“e-commerce merchants will want to maintain bespoke websites at the core of their businesses. But many of them will opt to sell across multiple platforms, including social media, and that increased complexity should make Shopify’s system even more valuable”

”Eコマースの事業者は、ビジネスの核にオーダーメイドの自社サイトを置いておきたいと考えているはず。しかし実際はソーシャルメディアを含む複数のプラットフォームで販売しなければなりません。こういった複雑さが増すほど、Shopifyというシステムの価値は高まっていきます。”

https://www.digitalcommerce360.com/2021/06/15/shopify-expands-ecommerce-pact-with-google-and-facebook/

“You now need to reconcile inventory across eight or nine channels. You now have to handle shipping and fulfillment across eight or nine channels. And so as the complexity increases, the value of using Shopify as the central retail operating system also increases.”

”(チャネルが増えれば)8つや9つのチャネル間で在庫を調整する必要がでてきます。つまり、8つや9つのチャネルにわたる出荷とフルフィルメントを処理する必要があるということです。このような複雑さが増せば増すほど、ShopifyをコマースOSとして真ん中に据えていく価値が高まります。”

https://www.digitalcommerce360.com/2021/06/15/shopify-expands-ecommerce-pact-with-google-and-facebook/

 

この発言は、複雑さが増していくあらゆるビジネスにおいて、プラットフォームが有利になる理由を端的に示しています。そして大事なことだから2回言ってくれる Harley さんはチャーミングですね笑

Googleしかり、Amazonしかり、、、プラットフォームはまさに群雄割拠です!