Shop Pay が Google へと拡大。その背景について

2021年5月27日(日本時間で5月28日)、Shopify は自身の決済システムである Shop Pay を、Google を通じて販売するすべてのShopifyマーチャントへ拡大すると発表しました。Google とのデータ統合の強化を発表した翌週に出た今回のリリースは、両者のパートナーシップの強さをより明示的にアピールするかたちとなっています。

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今回の発表、具体的には、Google の SERP(検索結果)などからダイレクトに商品を購入できる「Buy on Google(Googleで購入)」を有効にしている Shopifyマーチャントに対し、チェックアウトの選択肢として「Shop Pay」が提供される、というものです。

 

 

Googleのプロパティ全体では一日あたり10億回ものショッピングセッションがあるといわれていますので、その機会に Shop Pay がリーチできることは、Shopify 、およびShopifyを利用するマーチャント双方にとって販売機会の増大につながります。

本件は2021年の後半にアメリカで開始されますが、(これまでの流れから察するに)それほど遠くない将来に各国へ展開されるのではないかと期待されています。

Amazonにあって、Googleにないもの

Shopifyにとっては願ったりかなったりの今回のディールですが、Googleにとってはどうでしょうか。

Googleも自身のチェックアウトサービス「Google Pay」がありますので、Shop Payとの接続は、自社の決済上一等地をわざわざ競合に分け与えるような行為に見えなくもありません。

一般論ですが、自社の一等地を他社と共有するということは、それ以上の利益が得られる見込みがあるか、そうせざるをえないほどの危機感があるかのどちらかです。

個人的には、その両方ではないかと思います。

背景にあるのは、(以前から言われていることですが)広告における Amazon の台頭があります。2021年第1四半期には広告事業で前年同期比で77%増を記録した Amazon は、コロナ禍以降のEコマースの追い風を受けて勢いをさらに増しています。以前は Duopoly(Google、Facebook 2社による独占)と揶揄されていたインターネット広告は、現在はTriopoly(Amazon を加えた3社による寡占)と言われるまでなっています。

Amazon の存在感は加速度的に大きくなっており、Google の危機感は想像に難くありません。

Amazon に豊富にあって Google には足りないもの、それが購買データです。もちろん Google も Googleアナリティクスやコンバージョントラッキングデータを通じたトランザクションデータは大量にありますし、商品データ(≒Google マーチャントセンター)だけでいえばおそらく Amazon を凌駕する情報量があるはずですが、それらが完全に購買データと紐付いているのが Amazon で、他のシステムとの疎結合でやりくりしているのが Google です。

つながっていなければデータとして活用できないので、そのつながりを強化する必要があります。今回の Google と Shop Pay の提携の背景には、そんな事情が垣間見れます。

情報をつなげるための提携

Shopifyによると、今回の提携では、ユーザーが Google 経由で Shop Pay を使用すると、クレジットカード情報、請求情報、住所などの決済データは Shopify と Google の間で共有されるスキームになっているそうです。

“When customers use Shop Pay via Google, their checkout data, such as credit card information, billing information and address, will be shared with Google, according to a spokesperson from Shopify.”

Shopify の広報によれば、カスタマーがGoogle経由で Shop Pay を利用すると、クレジットカード情報、請求情報、住所などの決済データが Google と共有されるとのこと。

https://digiday.com/retail/cheat-sheet-shopifys-shop-pay-integration-will-share-customer-purchase-data-with-google/

つまり、Google は足りていなかった購買情報をマーチャントセンターと紐付いた状態で手に入れることができるということです。2020年の無料化で大幅に増加(2020年比で74%増)した商品データに購買情報が紐付いていくと、それは広告配信において非常に大きな後押しになるはずです。

しかも、提携した Shop Pay は他のチェックアウトシステムよりも高速(70%早い)、かつコンバージョン率が高い(1.72倍)と言われています。

Shop Pay の提供によってマーチャントセンター(Googleショッピング)経由でのコンバージョン率が上がれば、データの蓄積スピードだけでなく、シンプルに Google の広告収益が増える可能性が高まります。Google経由で買ってもらえれば手数料がタダになる可能性がありますし、Shop Payを選んでもらった方がコンバージョン率が高いのであれば、Eコマース事業者がGoogle上でショッピング広告を開始、あるいは拡大するメリットが増えるはず、という算段なのでしょう。

もちろん、購買データは広告だけでなく Google のあらゆるプロパティでユーザーにサジェストするために使われるはずで、あらゆるタッチポイントで購買機会を作ることになります。

個人的には、「将来的な広告収益の増加見込みが決済によるマージンを上回ればよい」という意思決定は、Googleがどこまでいってもメディアであり広告の会社であることの証左なのだなと思いました。

排他的ではない、開かれた連合

Google は Shopify とは別に、WooCommerce、GoDaddy、Square といったコマース・決済業者との統合も開始すると発表しています。決済の本丸はさまざまな専門業者とユニオンを組むことで利便性を優先し、あくまでその前の集客(商品とユーザーとの接点)の最大化にこだわっていくという姿勢が改めて確認できたような気がします。

Shopify にとっても、今回の Shop Pay の拡大は2021年2月に発表された Facebook や Instagram との提携と基本路線は同じで、接続するプラットフォームが増えれば自社のマーチャントの売上に寄与でき、結果的に Shopify エコシステムがより便利に、より儲かっていくという構造を目指していると考えられます。

両者の提携は象徴的ではあるものの、だからといって排他的ではなく、今後もさまざまなパートナーに向けて開かれている印象です。破壊的ですらある Amazon の勢いにどのように対応していくのか、ここから数年のあいだに、Eコマースの勢力図はますます変化していくでしょう。

今回の Shop Pay の Google への拡大はアメリカのみの展開として発表されましたが、構造的には近いうちに他国にも展開されるはずです。日本で始まった際にはまた改めて記事にしたいと思います!