アートとテクノロジーの融合で、コマースのこれからを共創していく 〜 non-standard world株式会社 高崎健司 #State-Of-Commerce Vol.11

「State of Commerce」は、Eコマース運営の影の主役である、EC制作やアプリ開発、物流や在庫管理、集客などの現場を通じて、顧客や市場へ価値をつくりだしているスペシャリストの方々に焦点を当てるインタビューシリーズです。現場の最前線が肌で感じていることを自らの言葉で語って頂くことで、Eコマースの現在の輪郭を少しでも捉えることができればと考えています。 (インタビュー一覧はこちらから)

第11回目は、前回の川島さやかさんに続いて non-standard world株式会社(ノンスタ)さんから代表の高崎健司さんにお話をうかがいました。今回は、ノンスタという集団の目指す価値観と、コマースの未来について語っていただきました。

※インタビューは2022年3月に行われました


支援側だからこそ、ブランドと同じ経験をする必要がある

ーー 本日はお時間いただきありがとうございます。先ほどは川島さんに『Hello Shopify Themes Shopifyテーマ開発ガイド』の刊行エピソードについてお伺いしました。この流れに続いて、代表の高崎さんにも、書籍のプロデュース側のお立場から自社レーベルでの刊行について具体的にお伺いできればと思います。

…が、その前に、ノンスタというと以前インタビューさせていただいた佐藤さんが表で話されることが多い印象なので、ぜひ今回は代表の高崎さんにも Shopify やノンスタという集団の目指す方向性についてもお聞きできればと思っています。 

高崎:こちらこそお時間いただきありがとうございます。

 

まずかんたんにノンスタの紹介させていただきますと、現在(2022年3月)ノンスタは創業11期目になりまして、「art and tech for commerce」を標榜し、コマース領域では Shopify を中心にヘッドレスコマースの構築や運用支援、それ以外にも自社レーベルなど、アートとテックの融合をキーワードに活動を続けている制作会社です。

 

私は大学の卒業後にソフトバンクでウェブディレクターとして働いていたのちにフリーランスとして独立し、2011年に現在のノンスタを創業しています。共同創業者の佐藤とは ICU(国際基督教大学)時代から知っていたので、お互いフリーランス同士で仕事をすることが多く、そのまま一緒に起業しました。

non-standard world 高崎 健司

国際基督教大学卒業後、ソフトバンク(株)入社、Web構築の仕事に従事した後、2009年に独立。2011年、non-standard world株式会社を起業。二児の父。福岡への移住経験者。

経営者でありエンジニアで、さらに人事、法務、経理、総務等、一般企業の管理部門と呼ばれる仕事をすべて一人で担当している。経営者として掲げているのは「理想を捨てない現実主義者」であること。

 

ーー 先ほどインタビューしていた川島さんもフリーランスとして独立されるとお伺いしました。

高崎:そうなんです。私も佐藤もフリーランス出身なので、チャレンジしたい気持ちはとても理解できます。だから応援したい。

 

だからこそというか、フリーランス出身として、それがサラリーマン時代とはまったく違う世界であることも知っています。ソフトバンクという誰でも知る企業としての高崎健司と、身体一貫のフリーランスとしての高崎健司では、別人かと思うほど前後の落差がすごかった。 

 

その落差を身をもって知っているからこそ、実力以外のところで大変なことがあると知っていますし、そこでつまづいてほしくないなと思いまして。せめてもの餞別としてというか、何か名刺代わりになるものを渡せないかと思ったんです。

ーー デジタル全盛の時代ではありますが、それでも著書があるのとないのとでは、相手方から受ける印象は違いますよね。

高崎:そうですね。もちろん印象としての違いもありますし、彼女の実力とかこれまで積み重ねてきたものをしっかりかたちとして残すことができて、しかもそれが他の人の役に立つのであれば、それに越したことはないというか、それより優れた名刺はないと思ったんですよね。

ーー 内容も装丁も素晴らしいですし、素敵な名刺になりそうです。

高崎:あとは、川島本人も言っていたかもしれませんが、やっぱり自分たちで「生産から誰かのお手許に届くまで」を経験してもらいたい、というのもありますね。

 

自社サイトをきれいに作ったら売れるかというとそうではないように、さまざまな企業さんのEコマースをサポートする会社の端くれとして、モノを作ってから実際に人々に届くまでを経験しないと、よいサービスは提供できないんじゃないかという思いがあります。

 

サプライチェーンには生産以外にもマーケティングやファイナンスなど、あらゆるリソースが必要です。通常、書籍を世に出すとしたら出版社さんにそのあたりを一手に担っていただくことになりますが、今回はその部分を我々自身で経験する必要があると考えました。自分たちが支援会社を標榜しているからこそ、自社レーベルでやろうと。

参考リンク

   

取材はノンスタさんのギャラリールームで行いました

映画は総合芸術、ECは総合格闘技。一人ではなく、チームで

ーー 素晴らしいです。では、少し話を戻させてもらって、高崎さんのバックグラウンドの続きをお聞きしたいと思います。フリーランス同士だった佐藤さんとノンスタを起業されたあと、ウェブ制作を中心にお仕事をされつつ、現在の Shopify を中心としたEコマース支援にたどり着かれています。これまで一貫して高崎さんは代表でありながら、技術や開発の部分を担われていますよね。

高崎:はい、先ほどの続きでもう少しだけ自分の話をさせていただくと、もともと大学時代は映画を撮っていました。「映画は総合芸術」といわれるように、映像がスクリーンに映し出されるまでには本当にたくさんのステークホルダーがいて、演者やスタッフをはじめとして、関係者の膨大な積み重ねによって作られています。その経験から、「映画は人の心を動かせるものだけど、それはある一人の天才の特殊なひらめきによって動かせるわけではなく、チームの力で動かすものだ」と考えていました。

 

振り返って、現在私たちがかかわっているEコマースは、「ビジネスの総合格闘技」だといわれます。映画と同様に、チームの力で対処しないと人の心を動かしてモノやサービスを買っていただく、という力学はつくれないと考えていました。ですので、法人化する際は、はじめから誰かと一緒にやるという選択をしています。

 

映画を撮っていたくらいなので、やっぱりモノを作り出すことに興味があります。面白いもの、誰かの役に立つものをつくるための手段としてプログラミングがあるという感じなので、自分のことをエンジニアだという認識はしていないのですが、何かをつくるためのプラットフォームとして Shopify がすぐれているのは間違いないと考えています。

ーー 標榜されている「art and tech(アートとテック)」を一人でぜんぶ担うのではなく、それぞれを組み合わせてチームとしていくということですね。

高崎:ありがとうございます。そう、ノンスタが掲げている「art and tech for commerce」は、アートとテクノロジーの力でコマースを支援しようと、そういう意図で掲げています。

 

これは言い換えれば、情緒とデジタルの組み合わせることで、人の心を動かせると信じているということでもあるかなと。そして、それは一人でもできるかもしれませんが、それぞれ得意なところをチームで担った方が楽しいのではないかと思っていて。

「art and tech for commerce」※トップページから抜粋

 

ーー 総合芸術・総合格闘技だからこそ、みんなで作り上げるもの。

高崎:まさに。ちなみに私のプログラミングのきっかけは Flash なのですが、あれもデジタルを使って情緒的なコンテンツを作り出している典型ですね。はじめて Flash に取り組んだときの心の高ぶりと似たようなものを、Shopify に触れたときに感じたというのはあるかもしれません。

ーー おっしゃることが少しわかってきました。Eコマースのコンバージョンを「人の心が動いた結果」だと捉えれば、それを成し遂げるためには裏側で膨大な技術の積み重ねがあり、それらが無理なく融合しているのが Shopify、だからチームで取り組む意味があるということですかね。

高崎:そうですそうです。実は Shopify に出会うまではさまざまな制作物を提供していまして、フルFlash のサイトを納品したこともありました。ただ、ご存知のとおり Flash は2020年末でサンセットが決まっていましたし、ノンスタとしてもどういった舵のとりかたをするか、方向性を模索していたことがあります。

 

当時、ある企業さんから越境EC のご相談を受けたときに調べていて Shopify に行き当たりまして、調べていくと SaaS として非常によくできている。それまでは Ruby でフルスクラッチで構築することもあったのですが、0→1の開発は自由度は高いもののやっぱりパワーがかかりますし、世の中の動きも早いので、どうしても徐々にメンテナビリティも下がってしまう。

 

一方で Shopify は高いレベルで UI と構造が一致していて、API も豊富。技術的にしっかりしている。創業者が Rails のコミッターであったりと、バックグラウンドがしっかりしていると思いました。

ーー 情緒的な表現をするための技術が揃っている。

高崎:はい、情緒を技術によって支えることができる。大げさに言えば感動と経済が両立している。特化する意味があるんじゃないか、そう思いました。

観測機を打ち上げたら、いい結果が返ってきた

ーー とはいえ、会社のリソースを何かに特化させることはリスクも伴います。いきなり Shopify に特化するぞ!と決めるには逡巡もあったのではないかと。

高崎:はい、いきなり特化して失敗して、会社が傾いたら元も子もないので、そのあたりは慎重に(笑)。

 

実際には、まずブログを書きました。当時は Shopify にかんする日本語の情報は少なかったので、調べたことを2本ほどの記事にまとめて出したんですね。そうしたらすぐに反応がありました。検索エンジンからトラフィックが増え、問い合わせもありました。

ーー 需要が見えた。

高崎:そう、たった2本のブログ記事に、ビビッドな反応がある。供給に対して需要の方が多いんだとわかりました。状況判断のために観測機を打ち上げたらいい結果が返ってきたという感じです。需給バランスに歪みがあってホワイトスペースありそうだ、ならばトライしてみようという判断ですね。

ーー 振り返ってみると、そのご判断は間違ってなかったですね。

高崎:そうですね。Shopify が盛り上がるという意味でもそうですし、Shopify は本当にマーチャントが合理的に商売できるように作られているので、支援側としてもビジネスを設計しやすいです。

  

Eコマースは総合戦なので、支援企業とマーチャントはチームである必要があります。受発注だけの関係や、明確に上下がある縦関係では乗り切れない可能性がある。

 

アップデートも頻繁にあって変化が速いので、支援会社におんぶにだっこでは難しいですし、一人でなんでもやるのにも限界がある。だから伴走する必要があるというか、マーチャントと支援会社は共創関係でありたいと考えています。伴走しながら共創していくという意味でも、Shopify のシステムはよくできていると思いますね。

ーー 運用・更新していく前提でサービスを設計した方が合理的だし、Shopify はプラットフォームなので、マーチャントも支援会社も、どちらも運用を前提に仕事ができるということですね。

高崎:はい、弊社は伴走型支援と銘打っていますが、Shopify がそれをやりやすくしてくれているとも言えるかもしれません。

正射必中。先に GIVE ありき

ーー お話しをお聞きしていると、「チーム」が今回のキーワードだなと感じます。Teaming(チーミング) は現代の経営でも大きなテーマの一つですし、それを総合格闘技であるEコマースの支援会社で実践される意味みたいなものを感じました。

高崎:突き詰めると人間関係なのかもしれません(笑)。映画もコマースも人の心を動かすことで経済が動くという意味では同じなので、会社を経営していても、人を起点に考えることは多いです。

 

たとえばこのギャラリーも「EC支援だけでなくポップアップストアのように体験できる場所を提供できたらいい」という考えでやっていますが、もともと別の場所でギャラリーを運営していた経験のある社員からの着想で始めています。

インタビューを行ったノンスタさんのオフィスに併設されているギャラリー

 

ーー ビジネスだと、「その市場は大きいのか」「ポジショニングできるか」といった視点で見ることが一般的には多いですよね。

高崎:たとえば、弊社で支援しているバラの会社さんは、飲用できるバラを作っていらっしゃいます。

 

セオリーでいえば、生花というのはギフト需要が一般的ですし、その需要に合わせて商品をつくるべきです。もちろんギフト用の商品はありますが、一方で、花=ギフト というのは人が勝手につくったセグメントでもあるので、ターゲットやイベントがあるから、そのセグメントが事後的に発生している。

 

STP(セグメンテーション、ターゲティング、ポジショニング)というフレームワークは大事ですが、そのお客さまは「市場・マーケット」という外部的な要因からビジネスを置きにいくのではなく、「バラの可能性をどう引き出すか」という内部的な起点で考えていらっしゃいます。

ーー 「自分たちは何者か」というところからビジネスを始めている。

高崎:はい、経営理論でも「エフェクチュエーション」という概念がありますが、まさにそういう感じで経営されていて。

 

そういった考えの方々とかかわらせていただくと、内的な理由から始めてもいいんだ、ということに気づきます。ビジネスなのでもちろん苦労も多いかと思いますが、本当に楽しそうにお仕事をしてらっしゃって、我々もお付き合いしていて気持ちがいいし、伴走させていただき甲斐がありますね。

 

 

ーー 「ターゲットに当てる」とか「ターゲットする」というより、根源的に考えて実践していくことで、市場が創造され、向こうから逆にターゲットされる、という感じでしょうか。「私を推して」ってアピールするのではなく、「いつの間にか推されてしまっている」状態を目指す、みたいな。

高崎:面白い。そうですね。付け加えるとすれば、ターゲットに愛されたいという出発点ではなく、相手を先に愛してしまうということでもあるかなと。素材を愛しているからこそ可能性を考えますし、できあがった製品を知ってほしい、あの人に知ってほしい、体験してほしい、感謝を伝えたい、そんな GIVE の意志があると、その先に TAKE があるのかなと思います。

ーー Eコマースとは、つまりエーリッヒ・フロム(笑)!

高崎:「愛は意志であり技術」ですね(笑)。ちょっと抽象的になっちゃいましたが、、、もとい「正射必中」という言葉もあるとおり、外的な要因をあれこれ詮索したり、相手によってあれこれ変えるよりも、自身の姿勢をしっかり保つのが王道かなと思ったりはします。

ーー Shopify に限らず、コマーステックは本当に変化がめざましいですし、不確実性の高い分野の一つだと思います。変化にうまく波乗りしていくためにも、姿勢が整っていないとすぐに飲み込まれてしまいますよね。

高崎:まさにそうです。だから、自分の弱いところや苦手なことではなく、強いところ、得意なところ、あるいは好きなことにフォーカスしたほうが姿勢は整いやすいのかなと思います。不確実性という言葉が出ましたが、まさに「未来はわからない」ということしかわかりません。今日の予想は明日は違うかもしれないので、だからこそ自分の軸をもってコトに当たるのが重要なのではないかと思います。

ーー その軸が、ノンスタさんであれば、「art and tech」ということですね。

高崎:はい、世の中は基本的な欲求は満たされていて、人が必要している価値は徐々に情緒的なものに移ってきていると感じます。情緒をアートだとすると、それをテック、つまり技術で支えていく。そういった姿勢を提示していきたいなと思っています。

ーー これから先、ノンスタさんからどんなアウトプットがあるのか、ますます楽しみになりました。本日は素晴らしいお話、ありがとうございました!


編集後記

今回のインタビューは、川島さんに続いてそのまま社長の高崎さんに突撃取材する、というかたちで行いました。すでにノンスタさんだけで3名の方に取材をお願いしているという…!好きすぎだろうとツッコまれそうです。

Shopify のテーマ開発本の話を皮切りに、技術や経営、そしてエーリッヒ・フロムといった哲学的な話題まで、Eコマースというテーマにかかわらず、様々なお話が聞けて、art and tech を肌で体感した非常に刺激的なインタビューでした。(記事ではだいぶ端折っていますが)

最近は配信イベント「nonsta folks」も始められるなど、精力的にさまざまな活動をされていらっしゃるノンスタさん、今後の活動も注目していきたいと思います!

 

参考リンク