Shopifyを通じて、「これから」のストーリーを支えたい 〜 non-standard world 佐藤昭太 #State-Of-Commerce Vol.4

「State of Commerce」は、Eコマース運営の影の主役である、EC制作やアプリ開発、物流や在庫管理、集客などの現場を通じて、顧客や市場へ価値をつくりだしているスペシャリストの方々に焦点を当てるインタビューシリーズです。現場の最前線が肌で感じていることを自らの言葉で語って頂くことで、Eコマースの現在の輪郭を少しでも捉えることができればと考えています。 (インタビュー一覧はこちらから)

第4回は、Shopify 界隈で知らない方はいない有名人、non-standard world(以下:ノンスタ)の佐藤さんに、Shopify に取り組むことになったきっかけから想いまで、いろいろとお話をお伺いしました!

※インタビューは2021年11月に行われました


音楽活動からウェブ制作、そしてShopifyへ

ーー こんにちは。今日はお時間いただきありがとうございます!一度お話ししてみたいなと思っていたのでうれしいです。今日は佐藤さんのお話を通じて、ノンスタさんがいまなぜ Shopify に注力されているのか、そのあたりを伺いできればと考えています。

佐藤:こちらこそお時間いただきありがとうございます。まず、弊社(ノンスタ)の設立経緯からお話しできればと。

non-standard world 佐藤 昭太

non-standard world株式会社 CMO(Chief Marketing Officer) アートディレクター

ウェブデザインを中心としたデザインワークをフリーランスで行う傍ら、空間・商品写真などの写真撮影も行う。2011年、代表の高崎と共に non-standard world, Inc. を設立。

マーケティングとデザインを両輪で担当しており、論理と感性の両立したデザインによってクライアントの目的達成とユーザーにとってのわかりやすさ、使いやすさ、気持ちよさを大切にしている。

佐藤:少し遡るんですが、この仕事をする前は音楽をやっていまして、高校3年生で結成したバンドを10年くらいやっていました。2001年に結成して、2010年くらいまで。

 

インディーズではありましたが音楽で収益を得ていて、海外にもちょくちょくライブしにいったりして、自分たちなりに頑張っていました。それで、バンドを世の中に伝える手段として、アートワークやウェブサイトを手作りでやったことが、振り返ると自分のウェブに関わる原点かなと思います。

ーー euphoria ですよね! めちゃめちゃカッコイイです。個人的にポストロックやマスロックが大好物なので、そのあたりの話もこのあと聞きたいですが…(笑)。ちなみに音楽と制作を並行されていらっしゃったとか。

佐藤:音楽の話も後ほどぜひ(笑)。それで、当時は音楽活動をしながらフリーで制作の仕事もしていまして。音楽とウェブのフリーランスという感じでした。

 

2010年に音楽活動が一区切りついたタイミングで、制作のほうで現在の弊社(ノンスタ)の代表の高崎と仕事をすることが多く、だったら一緒に会社を作ってみようと。それが2011年くらいです。

ーー ちょうど設立から10年ですね。おめでとうございます。最初はウェブの制作会社からスタートしたということですね。

佐藤そうです。仕事で多かったのはアパレルとか、ファッション関係の雑誌のプロモーションだったり、美術展とかそういうので。コーポレートサイトや別のプラットフォームで EC サイトの構築もありましたが、最初は EC 専業というわけではなかったんです。それで、今から2年くらい前(2019年頃)ですかね、以前から名前だけは知ってたんですけど、Shopify がすごくいいな、やってみたいなという話になりました。

 

以前からEC サイトは「作って終わりじゃなくて、そこからがスタート」だと感じていました。Shopify は拡張性が高くマーケティング機能も充実しているので、納品して終わりじゃなくて、クライアントさんのビジネスに深く関わって、一緒にやっていくというスタイルのほうが面白いし、そういう伴走型が求められているんじゃないかと考えたんです。

ーー わかります。経営的にも「制作→検収→納品」のサイクルって計画が立てにくいですし、精神的に苦しくなる場面が起きやすいのかなと思います。納品の ”その先” が一緒に見れないというのも寂しいですし。

佐藤:マンモスを倒して肉を得て、また次のマンモスを探しに行くみたいな感じですよね。それ自体が悪いわけではないのですが、別の方法も模索していたときに Shopify がきっかけになって狩猟から農耕とのハイブリッドへのシフトが起きました。

ーー 狩りから稲作へ(笑)。 ちなみに EC という切り口であれば Shopify 以外にも選択肢はあったと思いますが、そこで敢えて Shopify に絞られたのはやはり先ほどの拡張性の高さが決め手だったんでしょうか。

佐藤:それもありますし、実際に触ってみた結果ですね。うちの会社は小さな出版レーベルみたいなものをやっているんですけど、それで Shopify を使って立ち上げてみて、本当にマーチャントとしてすごく使いやすい、というのを感じたのが一番の理由かもしれません。ひと通り必要な機能がまず揃っているし、あとは開発者視点でもすごく作りやすいというか、適度な自由度があるというか。 

ーー あとから参入した私なんかでも、それは感じます。開発でもライブラリがいっぱいあるし、ああ便利だなーって。とはいえ、2019年の時点で Shopify に張るというのはチャレンジも大きかったのではと想像します。

佐藤:そうですね。とはいえ最初に Shopify を打ち出したタイミングで幾つかお問い合わせをいただいたりしていたのもあり、手応えは感じていました。

 

あとは、私よりも高崎がそのへんは思い切りがいいので、じゃあやるか、という感じで(笑)。

ーー 高崎さんが「0→1」タイプで、佐藤さんが「1→10」タイプということなのかなとお話をお聞きして感じます。いい補完関係ですよね。ノンスタさんの発信力は有名ですし、フォローしている界隈の方も多いと思いますが、広める部分においては佐藤さんがその役回りを担われてきたということですね。

佐藤:うーん、もちろん会社として発信していくという観点もあるにはあるんですけど、どちらかというと半分趣味のようになっているかもしれません。単純に面白いので。プロダクトの更新スピードが速いですし、面白いニュースがどんどん出てきます。コミュニティも暖かい方が多いので、発信自体がモチベーションになりますね(笑)。

 

※佐藤さんのTwitterアカウントはこちら

ヘッドレスコマースと Hydrogen

ーー 2019年にフォーカスを Shopify に絞られて約2年が経ったところで、現時点での手応えとか、見えている世界についてもう少しお伺いしたいと思います。

佐藤:はい。やはり Shopify 自体の知名度が上がっているということと、発信を通じて新たに知り合う方も増えましたし、そういう出会いの総量が増えたのは本当にうれしいですね。お問い合わせもありがたいことに増えています。

ーー 開発環境はどうでしょう。ノンスタさんだとヘッドレスコマースのイメージもあって、フレームワークに Gatsby を推されている印象があります。Hydrogen の登場も含め、そのあたりの変化はどう考えられていますか。

佐藤:EC の大きな進化の流れの中で、方向としてはヘッドレスコマースに向かっていくだろうと考えてここ最近ずっと研究しているという感じです。一方で、我々は無理にヘッドレスだけに絞っているわけではなくて、マーチャントさんの状況をお聞きしたうえで、「テーマの実装が向いてます」とお勧めして構築することもありますので、あくまで選択肢の一つとしてヘッドレスをご提案する、という感じで捉えています。

 

先ほどの伴走型というワードにつながってくるのですが、ヘッドレスコマースをトリガーにして弊社を知ってくださる方がいらっしゃることで、いわゆるシンプルな制作会社ではなく伴走型だからこそ難易度の高い実装もご一緒しますし、その方法としてヘッドレスがありますよ、という言い方になるかと思います。

 

そう考えると、ヘッドレスコマースという打ち出しは原因というより結果なのかもしれません。

ーー 外部にある自社の EC 専属チーム、という感じなのかなと思いました。ところで、これは私の完全な偏見なんですが、以前は「Shopify = ヘッドレスコマースの最右翼」というイメージが世間的にはありましたが、そもそも Shopify ってヘッドレス専用のプラットフォームじゃないですよね。特にヘッドレス用のサポートが充実しているわけでもないですし。むしろ「あとは任せた!」みたいな印象すらあります。だからこそ構築における適切なパートナー選びは重要ですよね。

佐藤:いやー、そうかもしれません(笑)。単純にヘッドレスコマースという意味では他にも選択肢があるのは事実です。でもやっぱり我々は Shopify に惹かれるんですよね。開発者にとっても、マーチャントにとっても、UXを最優先に考えているところがいいなと思います。

 

あとは連携力というか、SNS しかり、このあいだの Spotify との連携もそうですが、そういったつながっていくカルチャーが魅力的だなと思います。なので結局 Shopify を優先的に考えちゃうところはあるかもしれません。

参考リンク

 

ーー 本当にカッコイイですもんね。Tobi さん(Shopify CEO)の UNITE 2021 でのライブコーディングとか、ずるいなって思いますし(笑)。

佐藤:確かに(笑)。技術的に優れているだけでなく、カルチャーを作ろうとしている感じが好きですね。アディダスの YEEZY をつくった Jon Wexler などが象徴的ですが、色んなアーティストが Shopify をクールだと感じて注目しているんだなと感じます。

ーー それはアート&テックを標榜しているノンスタさんもまた然り、ということですね。あ、ちなみに Tobi さんのライブコーディングで思い出しましたが、先ほどのヘッドレスの続きでいうと、私は Shopify のヘッドレスは「あとは任せた!」みたいな印象だと言っちゃいましたが、だからこその Hydrogen の登場なのかなと思います。さすがにちょっと冷たかったからそっちを向くよ、みたいな。

佐藤:まさに、Hydrogen は大きな転換点になると思っています。今までは「ヘッドレスもできるのでご自由にどうぞ」という感じでしたが、今後はそうではなくなって、積極的にサポートしていくという表明なのかなと。

 

まだ現時点(2021年11月現在)では本番には使えませんが、ヘッドレスを取り巻く環境は、将来的に Hydrogen によって変わっていくだろうなと思います。

インタビューを行った non-standard worldオフィス併設のギャラリー

クリエイターエコノミーを支える Shopify

ーー Shopify は変化のスピードが速くて面白い、という話をしていただきましたが、常に最新の情報をキャッチされている佐藤さんの視点で、今後どういうムーヴメントが Shopify 周りでありそうか、お伺いしたいです。

佐藤:いろいろありますが、確実にそうなるだろうと思うことの一つに、クリエイターやアーティストが Shopify を採用する流れが加速するだろうなと思います。

 

音楽の話をすると、音楽を聴く手段が CD のようなフィジカルからダウンロード、そして配信へと矢継ぎ早に変化していく中で、アーティストが音源で収益を上げていくというのが以前よりだいぶ難しくなっています。アフターコロナの世界では以前のような密な状況でのライブには心理的なブレーキがかかりますし、結果的に収益源の柱としてマーチャンダイズに力を入れていくという流れになります。

 

そこで「何が基盤として選ばれるのか」という視点に立つと、Shopify の可能性は大きいのかなと。

ーー 私も同じ意見です。いわゆるクリエイターエコノミーという表現になると思いますが、その経済圏で最も必要な要素は「拡散」と「連携」だと思いますので、つまりつながらないプラットフォームは支持されない。結果的に連携に強みを持つ Shopify が選ばれる可能性は高いだろうなと思います。

佐藤:Shopify って自社ストアですらあくまで一つのチャネルであるという考え方なのが管理画面から分かるじゃないですか。だからガンガンつなげばよくて、それぞれのブランドやアーティストが得意なチャネルで表現していけば、結果的にクリエイターの収益源の多様性につながるんだと思うんですよね。

 

Shopify の連携力が、その多様な世界観を保証してくれるような気がしています。

ーー 同感ですし、面白いです。バンドをやっていらっしゃった佐藤さんとしては、先ほど出た Spotify との連携はアツかったのでは。

佐藤:アツかったです(笑)。自分がバンドやってたときに欲しかったなって思いましたね。あの頃はちょうどiTunes ストアでアルバムが徐々に売れなくなってきた頃で、でも今のように配信がデファクトになるって感じでもなく、過渡期でした。

 

自分たちの音源を無料にするというトライもしていたんですが、だからこそマネタイズもライブとグッズの組み合わせに寄せたりしないといけなくて、試行錯誤しながらでした。今だったらまた違ったアプローチがあるように思います。

ーー 音楽の収益って「IP とライブと音源」という三本柱で考えることが多いと思いますが、旧来的な意味でのライブが2020年は閉じられていたので急速にオンライン化が進みましたよね。そうなると IP をマネタイズするにはオンラインでアテンションを集めることができないと難しい。音源はプラットフォームに吸われちゃってますから、IP と SNS の接続が大事になる。だから Shopify の可能性は接続性にあると。

佐藤:そうそう、本当にそうです。アーティストも収益のバランスが偏ってないほうが活動しやすいと思いますので、環境的にセルフ・プロデュースは増えていくと思います。その方が健全だとも思いますしね。

 

Shopify みたいなプラットフォームがあって、これだけ表現の場が整ってくると、自分たちで何でもやれるチームが強いと思います。ただ、ぜんぶできる人って稀だと思いますし、役割分担したほうがいいことも多い。だから我々はそういうアーティストやクリエイターのサポートも機会があればどんどんしていきたいと思っています。

Shopify で、ビジネスに自由を

ーー すごくいいですね。D2C というジャンルも、ある意味インディーアーティストのような動きをするブランドだという捉え方もできますね。

佐藤:まさに。たとえば弊社が支援させていただいているメーカーさんの例だと、今まで小売を通しての流通がなかなか難しかった製品を、Shopify を使って直接消費者に届ける試みをスタートされています。

 

プロモーションや表現の方法を小売店に頼っていたことが、自分たちの言葉とメディアで魅力を発信することができて顧客ともつながれるというところに手応えを感じていらっしゃって、どんどん前向きになっていかれるんですよね。

 

こういった、クライアントがインディーズから世界を目指す、みたいなストーリーを支えるのは自分としてもやりがいを感じます。 

ーー まさにノンスタさんならではのサポートですね。 本日は貴重なお話、ありがとうございました!


編集後記

以前からお話ししてみたいなと思っていた佐藤さんに機会をいただいて、西荻窪にあるオフィスまで伺ってのインタビューでした。(オシャレだった…!)

音楽という共通の趣味から発展して、Shopify が支えるクリエイターエコノミーの話につながり、思わずインタビュアーという立場を忘れて楽しんで話し込んでしまいました。改めてお時間いただきありがとうございました!

ヘッドレスコマースの文脈で Hydrogen に触れましたが、今後の Oxygen のリリースも踏まえると、Eコマースの表現や流通は今後も水のようにとめどなく流れては進化を続け、世の中のアーティストやクリエイターを潤すことになるんだろうなと、そんなことをお話ししながら思いました。

近いうちにまたお伺いしたいです!次回はスピンアウト企画として音楽の話だけしましょう!(笑)。

non-standard world株式会社