Omni Hub は、ずっと「できない」と諦めていたオムニチャネルを現実化するためのもの 〜 フィードフォース 井形岳史 小飼慎一 #State-Of-Commerce Vol.5

「State of Commerce」は、Eコマース運営の影の主役である、EC制作やアプリ開発、物流や在庫管理、集客などの現場を通じて、顧客や市場へ価値をつくりだしているスペシャリストの方々に焦点を当てるインタビューシリーズです。現場の最前線が肌で感じていることを自らの言葉で語って頂くことで、Eコマースの現在の輪郭を少しでも捉えることができればと考えています。 (インタビュー一覧はこちらから)

第5回は、Shopify アプリの「Omni Hub」を開発、運営しているフィードフォースの井形さん、小飼さんのお二人に、なぜオムニチャネルアプリに取り組もうと考えたのか、そのきっかけから想いまでをいろいろとお伺いしました!

※インタビューは2021年11月に行われました


EC Booster からのスピンアウトプロジェクトが原型だった

ーーOmni Hub は利用するマーチャントさんが増え、追加機能も次々に実装されて面白いフェーズにあるのかなと思いますが、今日はアプリそのものの機能や解説ではなく、お二人がなぜオムニチャネルを、しかも Shopify で実現されようとしているのか、そのあたりを詳しくお伺いできればと思います。

いろんなところでお話されていると思いますけど、改めてお二人のバックグラウンドから教えてください。

井形:今日はお時間いただきありがとうございます。フィードフォースの井形です。

 

まずかんたんに自己紹介しますと、私は新卒でフィードフォースに入って現在6年目で、これまでデータフィードの広告営業や、EC Booster の新規立ち上げなどを行ってきました。現在はフィードフォースの新規事業として Omni Hub のビジネス面全般を担当しています。

フィードフォース 井形 岳史
igachan

株式会社フィードフォース 事業統括本部 App Unityチーム

Googleショッピング広告自動化ツール「EC Booster」でカスタマーサクセス、事業企画を担当したあと、Shopify – スマレジ会員連携アプリ「Omni Hub」のビジネス全般を担当。テクノロジーで新しいエンパワーメントが生まれる世界が好きです。福岡県出身。谷根千在住。

ーー 井形さん、改めてお聞きするとフィードフォースの基幹事業の多くに関わってますよね。それでは小飼さんもよろしくお願いいたします。

小飼:フィードフォースの小飼です。私は2017年の2月に中途入社で入ったので、年度的には井形さんと同じですね。

 

入社してしばらくはソーシャルPLUS のチームにいまして、その後 EC Booster の立ち上げにフロントエンドエンジニアとして関わりました。その後は現在の Omni Hub で開発を担当しています。

フィードフォース 小飼 慎一

株式会社フィードフォース フロントエンドエンジニア

ソーシャルログインサービス「ソーシャルPLUS」、Googleショッピング広告自動化ツール「EC Booster」でフロントエンドエンジニアを担当し、現在は「Omni Hub」の開発全般を担当。趣味で書店を営んでおります。

ーー ありがとうございます。話を伺うかぎり、お二人は EC Booster でご一緒だったということですよね。そこからどういう流れで現在の Omni Hub に至ったのかをお聞きできればと。

小飼:EC Booster は2018年の3月にリリースしたサービスなのですが、それからしばらくした頃に「EC Booster のパフォーマンスをチャート形式で表示して、利用してくれているマーチャントが確認できるようにしたい」という話が挙がりまして。振り返るとあれがきっかけかもしれません。

井形:「見れるカタチにするだけだったらやりますよ」という感じで小飼さんがモックをササッと作ってくれて。

小飼:最小単位で動きそうなものをまずは作って、もし需要があれば改善していこうか、くらいの温度感で始めました。EC Booster は一つ一つの機能群が大きめだったので、そのラインに載せて開発するのではなく、スピンアウトのような感じでフットワーク重視で作っていくことを並行してやっていました。

ーー サービスの機能開発と、新規事業や新規サービスの芽を見つけるためのトライアル、みたいな複数の目的を持ったプロジェクトという感じだったんですかね。

井形:そういう認識です。それで、先ほどの「EC Booster のパフォーマンスをチャートに」してダッシュボード化したアプリをいろんなマーチャントさんに見てもらったり、インタビューしたりして需要があるか探ってみたんですが…

小飼:あまり刺さらなかった(笑)。

 

ダッシュボード機能自体は EC の運営において大事ですし、あったほうがいいとは思うけれど、「売上につながらない機能はいらない」とバッサリ言われて、それはそうだなと。

ーー 管理系の機能ってお金を出してもらいづらいですよね。特に小売だと利益率が決して高いわけではないので、余計にその傾向はあるかもしれません。

井形:そこからは長い検証の旅の始まりで、徐々に EC Booster からは離れて新規事業の立ち上げになっていきました。

 

データフィードからの着想で製品情報をマネジメントするサービス PIM(Product Information Management)だったり、店舗のオーダーシステムなど、たくさんのフィジビリティスタディを重ねた結果、現在のオムニチャネル のアイデアと Omni Hub というプロダクトに行き着いた感じです。

井形 岳史

他の会社じゃなく、自分たちがやるべき理由

ーー そこが聞きたいです。いろいろなアイデアを試されてきた中で、なぜオムニチャネルに至ったのか。

井形:身も蓋もない話をすれば「スマレジさんがいたから」ということになります。スマレジさんは Shopify と連携するアプリを求められていましたし、我々もいろいろなトライを進めていく中にオムニチャネルのアイデアがありました。

 

オフラインとオンライン、何かと何かをつないで新しい価値をつくるという考え方はフィードフォースらしいなというのと、POS にはずっと注目はしていたので、攻略できるなら面白い。それで進めてみようという流れになりました。

ーー なるほど。きっかけはスマレジさんだったとして、何かと何かをつなぐというのは過去のフィードフォースのプロダクトでも根底に流れる考え方のような気がします。そういう前提を共有しながら始めたりしたんでしょうか。

小飼:どうでしょう(笑)。ただ、そういった「らしさ」を強く意識していたかどうかは別にして、いきなり突拍子もないアイデアを試すのではなく、手許にあって、知っている/やったことがあることから着想して、そこから半歩進んだりずらしたりしたところにヒントがあるだろうと思いながらやっている気がします。

 

既存のプロダクトと構造的に似ているというか、いろいろなプラットフォームを繋ぐという考えは無意識に踏襲しているのかもしれません。新規事業においては良し悪しがあるとは思いますが。

井形:自社の既存事業と大きく離れてしまうプロダクトだと、リーンキャンバスに書きづらさを感じてしまうのは一因かもしれないですね。

 

「流行っているから」あるいは「儲かりそうだから」という理由でノウハウがぜんぜんない分野にトライしたとして、突き詰めていくと「他の会社じゃなく、自分たちがやるべき理由」が何なのか問われたときに答えられなくなるので、結局は続かない。

 

自分たちらしさが発揮できるのはどこで、市場やニーズが存在しているのはどこなのか。それぞれの交わる場所を模索していった結果の Omni Hub という感じです。

ーー 何だかカッコいいな(笑)。 私もインサイダーなので初期のフィジビリから変遷は追っているつもりですが、拝見していると、トライを重ねていく中で「やらないこと」を決めていくときにフィードフォースらしさが出てると感じました。

井形:私が入社した頃の会社のミッションが「情報に新しい架け橋を」だったんですよね。だから先ほどの話とつながりますが、何かと何かをつなげるような仕事が自分たちらしいなと思いますし、そうじゃないことはテンションが上がりにくい(笑)。

 

もちろん、仮にぜんぜん別のカタチのプロダクトでも自分たちがやる理由が説明できればいいんだと思うんですけど、自分で理由が分かっていないものは売れないですし、それを5年10年やっていけるの?となったら、やはり言葉に詰まってしまいますね。

ーー そうなると、Omni Hub がフィジビリティスタディで終わらずに、正式にプロダクトとして覚悟をもって続けることになった理由は、自分たちがやる意義が見いだせたことに加え、市場のニーズが交差しているという確信があったということ?

小飼:先ほどのダッシュボード機能インタビューで「あまり刺さらなかった」と言ったのとは逆で、Shopify とスマレジの連携に顧客からのニーズがあるのがインタビューから見えてきたのは大きかったですね。

 

事業アイデアを繰り返し検証していく中で気づいたことの一つとして、利用者は「言うこと」と「やってほしいこと」がちょっとずつ違うということです。依頼内容と必要な機能がいつも少しズレている。

 

ただ、「スマレジ × Shopify」については、ほぼすべてのマーチャントさんが口を揃えて「店舗に来ている人が、システム上の誰だかわからない」とおっしゃってました。そこで課題の質が今までと明らかに違うなと気づいたというか、取り組むテーマが見えた感じがしました。

井形:それまでのいろんな検証の段階でうまくいかなかった点がつぶせているのと、スマレジを使っているマーチャントさんはみなさんフットワークが軽くて、フィードバックのサイクルが早く回せそうだという手応えもありました。

 

コロナ以降に店舗の意義が見直されたことで、オムニチャネル自体も再評価されていると思いますし、今後ますますスモールビジネスこそオムニチャネルを活用すべきだと思います。

 

それを実現できるソリューションが顧客から求められていて、外部環境の後押しもある。Shopify とスマレジという、仕組みとしても未来があるのであればやろう、という感じですね。

「どうせできない」を「もしかしたら」へ

ーー マーチャントからすれば、オフラインであれオンラインであれ「今目の前で会計してくれている人は誰なんだ」を把握したいということですよね。データが分断されていることでシームレスな接客ができなくなっているけれど、逆にそこが解消できれば、カスタマーの体験を向上させるような施策もやりやすくなるはずだと。

井形:そう思います。いわゆるロイヤリティマーケティングという言葉になると思いますが、店舗でも EC でもポイントは共通化したいですし、それぞれの状況に合わせて適切なメッセージを送りたい。MA(Marketing Automation)が発展して、オンラインではいろいろなことができるようになっているのに、それがオフラインでできないというのはおかしい。そういうのを一つひとつ変えていきたいです。

ーー CRM の歴史って何度もブームと運用の難しさのせめぎ合いで、なんとなく事業規模が大きくないと難しいとか、導入に莫大なコストがかかるとか、そういうイメージがあると思うんですが、カスタマーがちゃんと把握できる環境をローコストで構築できているという前提があれば、それも変わってきそうですね。

小飼:まさにそうですね。これまで「どうせできない」と諦めていた期間が長かったんだと思います。それが、今は「もしかしたら」と思ってもらえているという印象があります。

井形:Omni Hub では先日ポイント管理機能を出したんですが、こういうオムニチャネルの浸透に必要で、かつわかりやすい機能はどんどん出していきたいです。もちろんそこから継続的な売上につなげていくという設計がないと続かないので、そういう発信も合わせてしていきたいと考えています。

参考リンク

 

ーー これまではオンラインとオフラインの顧客を別々でしか認識できていなかったし、今でも店舗と EC で部署が分かれてたりするブランドもあったりして、構造的にシームレスに価値を提供できるような体制になっていなかった。だから「前提が揃ったよ」と伝えていくことが大事なんでしょうね。

井形:はい、プロダクトの強化と同時に、伝え続けるということもがんばっていかないとなと思っています。

小飼:オムニチャネルの基本形みたいなものが作れればそこから利用シーンを広げていくことができるので、今やっていることのスケーラビリティを信じて進めていきたいです。

 

マーチャント側はオムニチャネルはお金がかかる・大変だという前提ができてしまっていると思いますが、カスタマーからすると、そもそもシステムが二つに分かれていて、自分が別の人として扱われているとは想像していないはず。

 

そういう状況を是正するツールとして、Omni Hub を広げていきたいですね。

小飼 慎一

オムニチャネルの「ネジ」をつくる

ーー ここまで聞いてきて、二人が新規事業として Omni Hub をやっているのは EC Booster でたまたま一緒だったからという以上に、なんだか必然性というか運命的なものを感じてしまうんですが、実際どうなんでしょう。

小飼:どうなんでしょう。やっぱり偶然の積み重ねなのかなとは思いますが(笑)。

 

個人的には、派手なプロダクトをバーン!と世に送り出すというより、表舞台には出ないけれど絶対に必要なもの、たとえばネジとか歯車とか、そういうものを作りたいという思いがあってエンジニアをやっています。

 

Omni Hub もオンラインとオフラインをつなぐためのネジ的な必須機能を作っているという感じです。一度オムニチャネルという機構ができてしまえば、やり方はいろいろあってもネジそのものは抜けない、そうなるといいなと思っています。

井形:私も偶然なのかなとは思いますが、必然性があると思いたいですね。

 

もともと EC をやりたくて入ったわけではなくて、大学で地域経済や地方創生なんかを研究していた影響で、販路や知名度を上げていくために「つながる」手段について興味を持っていたので、当時のミッションが「情報に新しい架け橋を」だったフィードフォースに入社したのですが、先ほど出ていた「諦めていた期間の長かった」オムニチャネルを民主化していくという仕事は、巡り巡って新卒のときに考えていたことに非常に近いなと、だから自分がやる意味があると思っています。

ーー 小飼さんのネジの話でいうと、われわれは最初にネジをつくった人の困難や想いみたいなものは一切意識せずにさまざまな機械や道具を使っていますけど、今やっていることが続けば、未来はきっと Omni Hub だと意識せずともオムニチャネルな世の中になる、という感じなのかなと想像しました。

今日はありがとうございました。今後が楽しみです!


編集後記

以前のどこポイに続き内輪なインタビューでしたが、現在に至るまでのスピード感のあるトライ&エラーを横目で見てきただけに、この二人のバイタリティはどこからくるのだろうか、と思わずいちインタビュアーとして話し込んでしまいました。

インタビューのあとも Appify VIP さんとの連携が発表されたりと、開発がどんどん進んでいく様子が伺えて、まさにオムニチャネルの民主化に向けて突き進んでいる様子が伺えます。

最近はチームメンバーも増えて活気のある Omni Hub チーム。記事には載せませんでしたが、インタビュー中に小飼さんが「自分がいないと進まないという状況を抜けて、事業がどんどん手を離れて回っていくところまでいきたい。」とおっしゃってました。そんなところもにもネジ的思考を感じたりしています。

この記事を数年後に読み直したときに、「あのときはまだあんな状況だったよね」と言える未来を目指したいですね。また次のフェーズで改めてインタビューしたいと思います!

参考リンク