技術の恩恵を社会に還元したい。Shopifyならそれができるから。 〜 D3 江口晋之介さん #State-Of-Commerce Vol.7

「State of Commerce」は、Eコマース運営の影の主役である、EC制作やアプリ開発、物流や在庫管理、集客などの現場を通じて、顧客や市場へ価値をつくりだしているスペシャリストの方々に焦点を当てるインタビューシリーズです。現場の最前線が肌で感じていることを自らの言葉で語って頂くことで、Eコマースの現在の輪郭を少しでも捉えることができればと考えています。 (インタビュー一覧はこちらから)

第7回は、北九州で業務アプリケーションの開発や Shopify を軸にしたECサイト制作を行われている株式会社D3 の江口さんにお話をお聞きしました! さまざまな開発業務を行われている江口さんがなぜ Shopify に魅せられるのか、コマーステックや API エコノミーの可能性についてお話をお聞きしました。

※インタビューは2021年12月に行われました


Shopify は API が豊富で、やりやすい

ーー 本日はお時間いただきありがとうございます。江口さんとは実は「はじめまして」なのですが、前回インタビューしたコマースメディアの井澤さんからは絶大な信頼があるとお聞きしています。本日はよろしくお願いいたします!

江口:こちらこそお時間いただきありがとうございます。D3の江口です。

 

D3 は2020年に北九州で創業した会社で、私はそこで技術責任者をしています。コマースメディアさんとは Shopify の制作案件でお仕事をご一緒させていただくことが多く、井澤さんにもお世話になっています。

D3(ディースリー) 江口晋之介

株式会社D3(ディースリー) 技術責任者

福岡の小倉を拠点に Shopify 制作(ECサイト・アプリ)やオフィスコンピュータ(オフコン)のクラウド化(DX)や、美容機器の IoT 化を行う株式会社D3 の技術責任者。Shopify のほか、Laravel、WordPressにも明るい。最近の推しはサーバレスと PWAロケット

 

ーー D3さんはいろいろな開発案件を手がけられていらっしゃると思いますが、Shopify はやはり多いんでしょうか。

江口:そうですね。今だとお仕事の半分くらいは Shopify 関連になります。特にこちらから営業しているわけではないのですが、やはりコロナ禍以降は EC のお問い合わせが多いです。EC となると自然と Shopify になります。他の会社さんから弊社をご紹介いただくこともありますね。

 

ーー なるほど。ちなみに Shopify に携わるきっかけみたいなのはあるのでしょうか。

江口:もともと PHP や Python を触ることが多かったので、その延長で EC の相談に対応していったらいつの間にか Shopify を触ることが増えていた、という感じでしょうか。

 

たとえば、Shopify でそれなりの規模の EC 案件になると、多くは新規で EC を始めるマーチャントさんではなく、既に EC を運用されている既存のカートシステムからの移行が前提になります。Shopify で商品データを移行するときは、一般的にはアプリを使って移すことが多いと思いますが、商品量が多かったり既存のカートの仕組み次第ではたいへんなことも多いので、それをプログラムで解決する、みたいなことをやっていました。

ーー Shopify はそれが工夫次第でできるのがいいところですよね。そうなると、.dev とかでライブラリを調べたりしながら独学で?

江口はい。何年か前、Shopify を触りはじめた頃はもちろん知らないことが多いので、ご要望に合わせてできる・できないを調べていきながら、テストを繰り返してドキュメント読んだだけでは分からないノウハウを貯めていった感じです。

 

当時から Shopify は API が豊富だったので、そういった試行錯誤がしやすいプラットフォームだと思っていました。

ーー もともと開発をやられていたから、キャッチアップも早かった。

江口そう思います。D3 が扱っている開発には IoT だったり ERP 系の基幹システムがあるのですが、そういった他のシステムとの連携を踏まえると、Shopify はできることの可能性が大きいので楽しいですね。

 

たとえば、基幹システムに商品データベースがあって、それが在庫情報と連携していれば、Shopify で管理する在庫数と連動させることもできますし、Shopify 側で見積もり注文を受けて、それを基幹側で処理してまた Shopify で返すなど、もともと持っているお互いのシステムのポテンシャルを引き上げることもできます。

ーー 面白いですね! Shopify と他のシステムを繋ぐことで、自動化や効率化の可能性が増しますし、マーケティングやリテンションのための活動につなげることもできるということですね。これぞユニファイドコマースって感じがします。

江口:まさにそうなんです。ですので、先ほど IoT の開発もしていると言いましたが、IoT の場合は、デバイス側で受信したさまざまなデータを別のシステムで見える化して、商品開発だったりオンラインのマーケティングに使ったりすることも想定しています。Shopify とつなぐことができれば、こういうシグナルが出ているからこれをレコメンドしよう、とか、在庫がなくなっているから発注のアラートを出そうとか、そういうのもできますね。

 

もちろんどこまで実装していくかはお客さま次第ではあるのですが、そういう提案がカジュアルにできるのも Shopify の良さだと思います。

接続のよいプラットフォームが生き残る

ーー Shopify を単純な ECカートとして捉えてしまうと、やれ手数料がいくらだとか、やれこの機能がないだとか、そういうスペック比較のようなところに行きがちだと思います。もちろんそれはそれで必要な視点ですが、それだけではなく、もっとさまざまなアプリケーション同士がつながっていろんなことができるプラットフォームだということですよね。そして江口さんのように開発に強みがあれば、アイデア次第でそれらは実現可能であると。

江口せっかく Shopify で商売するのであれば、新しいアイデアを追求していきたいですよね。

 

先ほどお話しした ERP なんですけど、弊社でお手伝いしているお客さまでは、実はもともとオフコンといって、その会社でずっと使われていた独自の仕組みだったんです。それをイチから読み込んでクラウド化したんですが、そこに入っている商品情報を Shopify と連携すると、オフコン時代から時計の針を一気に何十年か進めることができる。PWA 化して、在庫情報に合わせてプッシュ通知がいくとか、そういうことも開発のスコープには挙げています。

ーー さらっと言ってますけど、オフコンからクラウド化するだけでも相当たいへんだったのでは。。。

江口たいへんでした(笑)。ドキュメントもないですし、データも正規化されているわけじゃないので、可能な限り集めて、文字コードを変換して、受発注のトランザクションを過不足なく置き換えないといけないとか、チャレンジがたくさんありました。

 

それ以外でも、人間がやっている FAX 送信や在庫管理なんかもシステムに置き換えています。トランザクションが増えれば機械学習を入れて受給予測とかもできるようになりますし。

ーー なるほど、一気通貫のシステムになりますね。その意味でも改めて API が充実していることが条件になりますね。

江口改めて、Shopify のいいところは、API が最初から充実しているので、いろんなシステムとかチャネルにすっと入っていけるところだと痛感しますね。

ーー 逆に言うと、接続が弱いプラットフォームは今後成立しないだろうなとも思います。

江口:間違いないですね。日本の EC では「チャットボット=LINE」という図式が当たり前になりつつありますが、あれが広がったのは LINE さんが API を作ったからですし。サイボウズさんの Kintone もそうですね。

ーー これからは「API エコノミー」だと言われるようになって久しいですけど、ようやく当たり前になってきたんだなあと思います。

江口:接続の良さは、これからの Web3.0 を踏まえると当たり前というか、必須になりますよね。今後は NFT とか、そういうところにも展開されていくはずなので、今の Google や Facebook のコネクトアプリと同じ感覚で、メタバースにかんたんに出店できるようになったら面白いですよね。

ーー おっしゃるように、今後は一部の所有が徐々に分散するという流れになっていくと思うので、繋げないとそもそも生き残れない気がしますね。NFT などは、今はまだ各社が乗り越える課題が多くてたいへんそうですけど、いわゆるインフラに相当するものが整ったら、一気に爆発しそうな気がします。

江口:少し話が逸れちゃうんですが、北九州に移る前、東京の大学にいた頃に、新橋駅の近くを歩いていたら着物の柄でつくったネクタイを売っているおばあさんがいまして。伝統工芸に興味があったのでいろいろ話していたら仲良くなって、そのおばあさんのネクタイのショップを WordPress で作ったことがありました。

 

せっかくなのでビットコインで決済できるような仕組みも作ったりして。100本くらい預かって、物撮りして、売れたらまたネクタイを取りに行く、みたいなことをしていました。今は Shopify に置き換える作業をしていますけど。

 

こういう動きが、今後はこれがデジタルアートだったり、メタバース上のアパレルだとか、そういうのに展開していけるといいなあと思います。職人がつくる伝統工芸が、形を変えてデジタルにも展開できると思うとワクワクします。

先人の技術の上に、我々は立っている。だから社会に還元すべき

江口Shopify の話に戻りますと、サーバーを意識しないで作れるのもいいです。環境つくるのはたいへんなので。

ーー AWS のインスタンス立てて、コンテナにして、金額計算して、、、というだけでも面倒というかストレスですよね。

江口はい、なのでそのあたりの負荷が少ないのは助かります。Shopify だけじゃなく、EC 周りは新しい仕組みやサービスがすごいスピードで出てくるので開発側としてはたいへんですけど、こういうのが作れると、まだ世の中に知られていない「いいモノ」が日の目を見るきっかけになるのかなと、そんな想いでやっていますね。

ーー 開発のお話を聞いていると、面白い反面、すごくタフなことをやっていらっしゃるなとも感じます。そういう開発に向けた情熱がどこからくるのかなと気になりました。

江口そうですね。少し昔話になっちゃうんですが、私は大学時代に国際開発工学といって、物理力学から電気、情報からなにから総合的に押さえるという学科におりまして、そこでフィールドワークとして、途上国で橋や建物を作る際の、技術提供だけじゃなくて建てたあとのメンテナンスとか、そのメンテナンスするための教育とか、そういうのを学ぶ機会がありました。

 

もともと伝統工芸とか、そういう職人的な技術が好きなのですが、何といいますか、いいものを持っているのに広められていないという事象を見たときに自分は何ができるのか、あるいは基礎研究だけじゃなくてそれをビジネスにどう応用するのかとか、そういうことに興味があるんです。

ーー 机上ではなく、実際に可能性を試してみたい、という感じでしょうか。

江口そうですね。まさに可能性です。せっかく可能性があるんだから、トライしたい。デカいことがしたいなという思いがあります。

 

そうだ、以前私が社内に向けて送った挨拶がちょうどそのあたりのことを書いているので、ちょっと紹介させてください。

“私は常々「D3 では、デカイことがしたい」と言ってきました。ただ、それと同時に「デカイこととは何なのか」という疑問が漠然とありました。今回、正解ではないですが、明確な方向が見えたので共有したいと思います。

それは「可能性」というキーワードにあります。私が人生で初めてホームページを作ったのはおそらく高校生のとき、ガラケーの html を駆使して作った部活動のサイトでした。夜通し html を駆使して作ったそのサイトが完成した時の高揚感は今でも覚えています。また、プログラミングスクールで Python を教えていた生徒が、自分が実装したプログラムが実際に動く様を見て、嬉しそうにしていた姿を覚えています。

これらのことから、人は何かをできるようになったり、何かを達成した時、感動と未来への希望を抱くのではないか。そして「何かをできるようになる」「何かを達成する」それが我々 D3 の持つ IT の力なのではないかと思うのです。我々が持つ IT の力で、お客様である「会社 = 人」の「可能性」を広げ、感動と未来への希望を作っていく。そして、その活動を通して、社員の皆様や会社に関わるパートナーの皆様の「可能性」が広がっていく。これが D3 の役割だとすれば、こんなに素晴らしいことはないと感じています。IT を通して人々の、社会の可能性を広げ、感動を、未来を作っていく。そんな想いを胸にこれからの D3 を皆様と作っていければ幸いです。

D3 ある日の朝礼より

 

ーー いい。いいなあ。まさに可能性ですね。

江口技術は先人たちの積み重ねの上に立っているので、ノブレス・オブリージュじゃないですけど、その恩恵を受けている我々は、何かで還元しないといけないと思うんです。

 

私は Winny を作った金子勇さんや、VPN の規格を作ったソフトイーサの登大遊さんのような技術者をリスペクトしているのですが、そういう、本物の開拓者の方々のおかげで自分たちが今存在できているので。

 

だから、いいものを作るとか、発信するとかもそうですし、せっかく技術があるのであれば、それを社会にお戻ししないといけないし、誰かの役に立つべきだと思って開発しています。

ーー 素晴らしいですね。私もぜんぜんスケールは違いますけど、まさに今こうやって江口さんから刺激を受けているように、最前線の人たちの知恵だったり、技術だったり、思いみたいなものを共有することで、結果的にマーケットを広げていくための間接的なお手伝いになるんじゃないかと思ってこの記事も書いています。自社のサービスやアプリもそういう考え方で開発していたりしますし。

江口:私も同じ考えです。先ほどの社内向けの挨拶でも書いていますが、何かと何かをつなげることで、別の「何かをできるように」なって、次の可能性が拓けていく。それが技術を社会に還元することだと思っています。

ーー いいお話が聞けてうれしいです。本日はありがとうございました!


編集後記

江口さんは、知り合いが極端に少ない編集長のことを気遣って、Vol.6 にご登場いただいたコマースメディアの井澤さんにご紹介いただいたことで実現しました。いわゆるテレフォンショッキング方式です。

インタビューでも触れていますが、システム同士がつながることの価値はどんどん増しており、いずれはつながらないものは存在できなくなる世界になるのではないかとすら思います。そういった潮流を、現場で実際に開発・リリースを続けている江口さんに裏書きしてもらったのは、このインタビューの大きな収穫の一つです。

「技術は社会に還元しないといけない。先人の技術の上に我々は立っているのだから。」

2022年以降のEコマースが一体どんな進化を遂げるのか現時点では分かりませんが、技術の進歩が多くの技術者に引き継がれ、また一つ生活者にとって便利になる世界になっていくのは間違いありません。そんな期待を抱かせる素敵な江口さんのお言葉でした!

参考リンク