YouTubeの動画アクション広告がテレビ面へ進出 〜リビングへと拡大するショッピング

コンバージョン重視の広告がCTVでも利用可能に

2021年10月4日(日本時間:10月5日)、YouTube は動画アクションキャンペーンをコネクテッドTV(CTV)プレースメントに拡大すると発表しました。

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テレビで YouTube を視聴している際に動画アクションキャンペーンが開始されると、デスクトップで見るような全画面の CTA(コールトゥアクション)ではなく、URL が画面の下部に表示され、そこからノートパソコンやスマートフォンでブランドのサイトに移動するように促されます。

テレビ画面への動画アクション広告の拡張は、2020年から予告されていたものです。今回の発表では 2021年5月に公開されたプロモーション動画にもあるとおり、テレビ面でのショッピングのしやすさをより進化させたものだと理解できます。(なお、以下の動画のようにスマートフォンにリンクを送る機能が含まれているかどうかはリリースから読み取れませんでした…)

2021年5月に予告された「Interact with CTV」

視聴者のストレスを増やさず、広告を拡大

今回の動画アクション広告のテレビ拡張がこれまでのフォーマットと違うのは、ユーザーの動画視聴を止めることなく実行されることと、テレビではなく別のデバイスからの購入を促している(厳密な意味でのダイレクトレスポンスではない)ことです。

従来型の TrueView 広告の多くは、(ディスカバリー広告を除き)動画視聴の体験を何らかのかたちで中断したり妨げたりするものでしたが、テレビ向けの動画アクションキャンペーンでは URL を提示するにとどめ、動画視聴をなるべく邪魔しない配信方式を採用しています。

これは、CTV での視聴の多くはキーボードやタッチパネルのような使いやすい入力インターフェースではなく、いわゆるリモコン(トグル)によるボタン操作であるゆえに、ユーザー側に複数の入力を強要したり、広告の視聴やスキップを妨げるような方式は支持を得られず、場合によっては離反すら招くということが予め分かっているということだと考えられます。

トレードオフとして、テレビ以外のデバイスを経由してアクションすることになるため、厳密な意味でのダイレクトレスポンスではありません。ゆえにどの程度の効果があるのかはまだ未知数です。

もちろん、最終的にはアクションが自動化される(同一デバイス内で完結する)ような未来が待っているのかもしれませんが、その道すじについての発表はまだありませんし、現実的にはハードウェアの進化と連動する必要があると考えられるため、現時点では「ユーザー体験」と「ショッピングの可能性」をある程度バランスさせたリリースになったのではないでしょうか。

なお、動画アクションキャンペーンの拡張ではコンバージョンリフト(ベータ)も測定できますし、これとは別に CTV 向けのマストヘッド広告も提供されていることなどからも、YouTube のテレビ面への特別な力の入れようが計り知れます。

増えるテレビでのYouTube視聴

なぜ YouTube がテレビ面に注力するのかといえば、そこに収益機会があるからです。

In the U.S., over 120 million people streamed YouTube or YouTube TV on their TV screens in December 2020.

「米国では約1億2000万人が、YouTubeまたはYouTube TVのコンテンツをテレビ画面でストリーミングしています。

https://blog.google/products/ads-commerce/expanding-video-action-campaigns-to-ctv/

With a quarter of logged-in YouTube CTV viewers watching primarily on TVs,2 the living room is becoming an essential place for brands to drive incremental conversions with new audiences. In early experiments for Video action campaigns on TV screens, over 90% of conversions coming from CTV would not have been reachable on mobile and desktop devices.

ログインした YouTube CTV 視聴者の4分の1が主にテレビで視聴しているため、リビングルームは、ブランドが新しい視聴者とのコンバージョンを増やすために不可欠な場所になりつつあります。初期に行われたテレビ画面での動画アクションキャンペーンの実験では、CTVから発生したコンバージョンの90%以上は、モバイルやPCでは到達できなかったものでした。

https://blog.google/products/ads-commerce/expanding-video-action-campaigns-to-ctv/

上記の引用にもあるように、テレビでの動画視聴はすでにリビングでの当たり前のよくある風景になりつつあります。(筆者もテレビデバイスは、地上波/BSの録画と CTV で半々くらいに使っています)

実際、日本でもテレビ画面での YouTube 視聴数は 2020 年の段階ですでに 1,500 万人を超えていると公式に発表されており、現在はもっと増えていると考えられます。

昨年の時点で1500万人を突破!

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視聴者が増えている一方で、いわゆるコマーシャルフィルム的な扱いしかできないテレビ面はダイレクトレスポンス系の広告主から敬遠されがちでしたが、今回の動画アクションキャンペーンの拡張によって、その流れも変わるかもしれません。

なお、テレビ画面の YouTube 視聴については、こちらのアナグラムのブログでも詳しく解説されていますのでぜひ併せてご覧ください。

参考リンク

コマース機能の強化で、YouTube経済圏がさらに拡大

YouTube は毎分 500 時間以上アップロードされていると言われています。その膨大な動画コンテンツを、2020年から無料開放が始まっているマーチャントセンターと紐付けをすることによって、膨大な商品カタログに変換することがGoogleの目的だと思われる…といった記事を以前書きました。

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この流れを支えるのは、いわゆる YouTuber の存在です。彼らに向けて収益源の複線化をサポートする取り組みは水面下で進められていると言われていますし、Eコマースを強烈に推進していく現在の流れから敷衍すれば、おそらくそれは商品データを軸にしたプロダクトであることは間違いないでしょう。


もし、テレビ画面をタップしたり、トグルに付いたショッピングボタンで買い物するようなことが当たり前の世界になるとすると、商品データを持つメーカー/ブランド側にとって、マーチャントセンターは単なる無料ショッピング広告(Googleに掲載)用の外付け商品データベースとしてではなく、自社の商品インデックスを積極的に拡張するマストアイテムとなるかもしれません。

未来から現在を振り返って、動画アクションキャンペーンはテレビ面をショッピングの主戦場の一つにするための布石だったという想像は、それほど突飛なものではないような気がしています。