【今日のひとこと】メタフィールド!メタフィールド!

「Shop」アプリの進化は「Amazon vs Shopify」の構図を現実化するのか?

「Amazon」と「Shopify」という2つのプラットフォームは、Eコマースの文脈でつねに比較の対象になってきました。

さすがに最近は見なくなりましたが、一時期は枕詞のように Shopify に「Amazonキラー」という形容がされていました。両社はコマースのエコシステムの中で実際には異なる役割をそれぞれ担っていますので、この表現はいかにもメディアの要請で作られた造語だという印象を持ちます。

amazonキラー – Google 検索

一方で、最近の Shopify の激しいアップデートや成長スピードを眺めるようになって、「いや… 一周回ってそうなのかも?」と思うようになってきました。

Amazon のビジネスモデルは EC だけではないので、すべてのカテゴリが直接的な競合になるかどうかは分かりませんが、少なくとも Shopify の成長の行く先に、マーケットプレイスとコマースプラットフォームの境目が少しづつ曖昧になっていく未来があるのではないか? ビジネスモデルが異なる両者を(カテゴリーが被っているという一点を根拠にして)対立構造で描くのはメディアや投資家が立ち上げた虚構かもしれないけれど、それは果たして将来においても虚構のままなのだろうか?

浮かんできたそんな疑問を、本稿では考えてみたいと思います。

Shopify がマーケットプレイス化するとしたら

Amazon はマーケットプレイス、Shopify はプラットフォームだと仮定すると、Shopify が Amazon の競合になることがあるとすれば、それは Shopify が Amazon のように売る「場」を用意することが成立条件だと思います。

構える場所もレイアウトもレジシステムもすべて選択肢が与えることができる Shopify が、マーチャントに提供できていないところがあるとすれば、それは「場」、つまりマーケットプレイスです。

もちろん、2020年から2021年にかけて次々と行われた Google や Facebook といった世界規模のチャネルとの提携ラッシュが表すように、自社サイトはあくまでチャネルの一つであり、Shopify はさまざまなチャネルを通じてマーチャント独自の「場」をつくっていく環境を用意している、という考え方もできます。

ですが、やはりコマースは売れてナンボの世界です。マーチャントに対して売る力を与えることができるプレイヤーは、それ以外の価値を提供するプレイヤーよりも優先されると考えるのが自然です。

売る力という観点だけでいえば、Amazon は Shopify に対して有利な立場にあるといえます。アメリカのEコマース流通の4割以上は Amazon によって担われているというデータもあり、それだけのトランザクションを出すだけの「場」の力が Amazon にはあります。

仮に、Shopify が(アプリやチャネル連携以外で)マーチャントに売る力を授ける方法が自身のマーケットプレイス化だとすると、そのアイデアを実現する可能性があるのは、おそらく Shopアプリではないかと考えます。

Shopアプリの可能性

Shopify は、2021年7月に Shopアプリの検索機能「Shop search(ショップ検索)」をテストしていると発表しました。

参考リンク

  

リリースには以下のような文があります。

In addition, our latest innovation, Shop search, will further advance brand rediscovery and loyalty within the Shop app. 

加えて、我々の最新のイノベーション「Shop search」によって、Shopアプリ内でのブランドの再発見とロイヤルティがさらに向上するでしょう。  

https://www.shopify.ca/blog/shop-search-early-beta

Shop search は、その名のとおりショップと商品の検索機能です。Shop アプリ内で商品名やカテゴリを検索すると、Shopify のマーチャント全体から横断的に取得した商品情報を確認できるようになります。

Shop アプリはもともと Shop Pay での注文を自動追跡(「Arrive」として提供されていた)したり、好きなストアをフォローして新着情報を確認できるアプリですが、Shop search がこのまま7月のリリースのとおりに発展していくと、たとえば、カスタマーが Shop アプリの検索バーに「食器」と入力すると、アプリの画面いっぱいに Shopify マーチャントが販売する食器のリストがズラッと並ぶことになります。

これはカスタマーの体験として Amazon と非常に近いはずです。プラットフォームがマーケットプレイス化する、と言っても過言ではないと思います。

もちろん、マーチャント同士を競合させるという可能性については、Shopify は非常に慎重というか敏感に対処しており、たとえばリリースでは次のような補足をしています。少し長いですが引用します。

 In the spirit of redefining the future of commerce together, Shop search is first available exclusively to eligible Shopify merchants in beta to test its functionality.  

What makes Shop’s search feature different is that it prioritizes existing customer–merchant relationships. When a shopper searches for a product on Shop, they’ll see their loyalty results at the top of their list. Loyalty results are relevant products from brands they’ve already purchased from or follow in the Shop app. That’s why we call Shop search a brand-first discovery tool. It supports loyalty by helping shoppers discover more about the brands they already shop from and engage with. We’re helping merchants surface new and lesser-known products to their existing customers to increase brand awareness and loyalty. 

コマースの未来を共に再定義していくという精神のもと、Shop search は、まずは 一部の Shopify マーチャントに限定してベータ版として提供され、機能テストを行います。

Shopアプリの検索機能の特徴は、既存顧客-マーチャント間の関係を優先していることです。カスタマーがShopアプリで商品を検索すると、リストの一番上に「loyalty results(ロイヤリティの結果)」が表示されます。「ロイヤリティの結果」は、カスタマーが購入したことのあるブランドやアプリ上でフォローしているブランドの関連商品です。我々がShop search をブランドを最優先する発見ツールと呼ぶ理由はこれです。Shop search は、カスタマーが購入履歴があったりフォローしたりしているブランドの情報を発見しやすくすることで、ストアのロイヤリティを支援します。我々は、マーチャントが既存のカスタマーに新しい商品やあまり知られていない商品を紹介し、ブランドの認知度やロイヤリティを高めることを支援しているのです。

https://www.shopify.ca/blog/shop-search-early-beta

Shop アプリでは、登録されているマーチャントすべてではなく、カスタマー(ユーザー)の入力した「お気に入り」や「購入履歴」のシグナルを元に表示を出し分けることで、ロイヤリティという観点を軸に既存のマーケットプレイスとの差別化を図っているようです。

ただ、それは別の言い方をすれば、カスタマーの利便性や新たな商品との出会いの可能性をある程度制限することにもつながります。

そこで、以下のようなオプションを用意して、登録するマーチャントの結果を横断的にサポートする機能も提供していくようです。

If a customer doesn’t find what they’re looking for in their loyalty results, they can toggle over to their discovery results. Discovery results are relevant products from other Shopify merchants eligible for search on the Shop app. Discovery results are mutually beneficial for Shop users and merchants. They help Shop users discover new independent merchants. And they introduce Shopify merchants to Shop’s audience of ~24 million engaged shoppers—at moments of high purchase intent. 

カスタマーが「ロイヤリティの結果」で探しているものが見つからない場合、「ディスカバリーの結果」に切り替えることができます。「ディスカバリーの結果」とは、Shopアプリで検索可能な他のShopifyマーチャントの関連商品のことです。「ディスカバリーの結果」は、Shopユーザーとマーチャントのお互いにとって有益なものです。Shopユーザーが新たにマーチャントを発見するのに役立つだけでなく、購買意欲の高い約2,400万人のユーザーにShop内でマーチャントを紹介することができます。

https://www.shopify.ca/blog/shop-search-early-beta

この「ディスカバリーの結果」についての説明は、一般的なマーケットプレイスの特徴を揃えています。マーケットプレイスのメリットを享受しながら、マーケットプレイスからは差別化しないといけない。Shopify がそのバランスに腐心していることが伺えるメッセージです。

Shop アプリは Amazon を志向するか?

これまで、Shopify はマーケットプレイスを構築しないとながらく主張してきました。

参考リンク

 

上記の記事にもあるように、 CEO の Tobi Lütke と プレジデント の Harley Finkelstein はいずれも、2021年3月の時点で「マーケットプレイスになる予定はない」とメディアに回答しています。

それでも、Shop アプリの検索機能のテストによって Shopify はマーケットプレイスに徐々に近づいていますし、少なくとも選択肢としてマーケットプレイスになりうる準備は整っていると言ってよいと思います。ネットワークビジネスモデルでいえば、Shopify は典型的なスタンドアロン戦略(ネットワーク効果を作り出すために、片側を先に構築し、あとからもう片方へと広げていく戦略)だと見ることができるからです。

Shop アプリはすで百万単位のダウンロードがありますし、マーチャント(の商品)を横断的に検索できるようになると、それはすなわち順位付けのアルゴリズムが存在し、ランキングに影響を与えるシグナルを定義することを意味します。(そして「何をシグナルに加えるか」にプラットフォームの哲学が入ると個人的には思います)

最終的には、検索機能がカスタマーに受け入れられれば受け入れられるほど、より高い順位を欲するマーチャントのニーズを叶えるため、Shop アプリの中に「広告」のエコシステムが登場するでしょう。つまり Amazon 広告のようなリテールメディアの誕生です。

もちろん、Shopify は既に連携している Instagram、Facebook、TikTok、Pinterest、Googleショッピングなどのマーケットプレイスを擬似的に構築しているという考え方もできます。一定以上の規模の Shopify マーチャントの多くは Amazon にも出品していますし、おそらく競合関係ではなく共存関係(あるいは役割の違い)を模索していく未来となるのだと思いますが、Shop アプリは Etsy などの D2C ブランドを発見するマーケットプレイスを意味的に代替する可能性もあり、いずれにせよどのような色を持ったアプリになるかの選択肢がまだ多く残されています。

Shop search については Shopify 内部でも議論があるようで、7月の発表以来新たな進捗が表立って発表されていません。マーケットプレイスの構築は、Shopify の持つ「何かのオルタナティヴとしての吸引力」のようなブランドイメージにマイナスの影響があるかもしれない、という議論があるのだと思います。

選ぶ道によってはいつか Amazon と競合することになるかもしれない Shop アプリ。その進路に、コマースの大きな流れを読むヒントが隠されているような気がします。