「ECでお買い物」が当たり前の選択肢として、多くの人の生活に定着してきました。実店舗と違って接客に制約はあるものの、「オンラインだからできること」の可能性は広大です。その可能性のひとつとして挙げられるのが、越境EC。国内に留まらず、海外へ向けた展開は、オンラインならではと言えます。
そんな海外への挑戦も、踏み出す前には様々な疑問が浮かび上がります。
- Shopify店舗にどんな設定が必要かわからない
- 輸出手続きのノウハウがない
- お客様にどのように送料を請求すれば良いかわからない
確かに国内展開に比べて複雑な面もありますが、それを理由に諦めてしまうのはもったいないです。まず「第一歩」を歩みだせるように、Shopifyアプリで出荷管理システムを提供するShip&co・Thomas Bertrand氏が、越境ECの導入編について解説。システム開発側とマーチャント側、両方の視点から得た経験を元にお話します。
期待と不安が多く入り混じる、越境ECへの挑戦。そのハードルを少しでも下げてもらえるように、弊社・Ship&coが培ってきたノウハウを紹介できればと思います。その前提として、弊社がShopifyアプリ「Ship&co」を開発するに至った経緯について触れさせてください。
元々弊社は、2008年にShopifyにて弁当箱輸出事業「Bento&co」を開始しました。海外に向けてEC事業を拡大していく中で、手作業の多い物流管理業務で様々な課題に直面するように。この煩雑な出荷作業をどうにかするべく、効率化を目指し社内で開発したのが、送り状発行システムでした。「Ship&co」は自社のEC経験における課題解決の為に開発した、ShopifyセラーによるShopifyセラーのための送り状発行アプリなのです。
マーチャントとアプリ事業者の両方の視点から、今後、越境ECビジネスをスタートしたいEC事業者の皆様が「海外発送」に苦労しないよう、自社サイトの立ち上げの時点に知ってもらいたい「発送のポイント」をまとめていきます。
ぜひ以下のポイントをECサイト運営においてご参考いただけると幸いです。またこれをきっかけに、越境ECにチャレンジングしてくださる「マーチャント仲間」が増えるとうれしいな、と思っています。
1. Shopifyの送料設定戦略
まず初めに、海外向けの送料の決め方について解説していきます。
海外発送を行うには、「クーリエ」と「日本郵便」という2つのオプションがEC事業によく導入されていますが、各運送会社の発送料金の決め方が少し異なりますので、一緒にチェックしていきましょう。
- クーリエ(Fedex, DHL, UPS):重量とサイズで実重量と容積重量を計算し、どちらか大きいほうの重量から送料が決定されます。
- 日本郵便:重量のみで送料決定されます。「500gまで」の重量からスタートし、「30kgまで」が最大の重量になります。また、サイズの制限もあり、長さ1.5mまで、かつ長さ+胴回り3mまでという規定が定められています。
また、どちらにも、複数の「サービス内容」が提供されます。例えば、日本郵便の場合、国際e国際スピード郵便(EMS)、国際eパケット、小形包装物などがあります。大手クーリエ業者であるFedExの場合、フェデックス・インターナショナル・プライオリティ、フェデックス・インターナショナル・コネクト・プラスなどがあります。各サービス内容によって、配送スピードや特徴が異なるので、発送料金も異なります。
上記のポイントを理解した上で、自社ECサイトに合っている海外配送業者をお選びください。
送料が決まったら次に気になるのが、「お客様にどのように送料を請求するか」という疑問。これに対しては、一つの答えに正解があるというわけではないので、「自社の正解」を見つける必要があります。では、どんな戦略があるか、一緒に確認していきましょう。
送料無料
送料無料は、「送料」という費用を別途支払うことが必要なく、商品価格のみで商品を取得できることを意味します。「送料無料」を導入することによって、理想はお客様にとってコストになる費用を減らすのも一つの手段です。カート落ち率の改善にもつながります。
しかし、無料といっても、実際の送料は無料にはならないので、売上に影響しないよう、利益を計算しながら、自社ECサイトに合っている方法を導入してください。
- セラーが100%負担する:送料無料を提供する最も単純な方法は、セラー側が送料100%を負担すること。
- 顧客が100%負担する:商品代金に送料を含めておく戦略で、例えば、商品定価20ドル・送料5ドルの場合、顧客には商品代金として25ドルを請求して「送料無料」を提供すること。
- セラーと顧客の双方が負担する:セラー側も顧客側も部分的に出荷コストを負担し合う戦略で、例えば、商品定価20ドル・送料5ドルの場合、顧客には商品代金として22.50ドルを請求して「送料無料」を提供すること。
送料を直接請求する
送料無料にせず、送料を直接顧客に請求することを意味します。よく導入される手法でいいますと、以下の2つの戦略があります。
- 一律料金:荷物の重さやサイズ、宛先にかかわらず、一律の料金を設定すること。
- テーブルレート:宛先、重量、アイテム数、合計金額などの要素を使い、レート表を作り、それに基づいて送料を設定すること。
ここまで送料についてお話してきましたが、一例として弊社が運営しているBento&coは、どのように設定しているか、ご紹介します。
Bento&coでは現在、40カ国の国に対して、180ドル以上の注文の場合、送料無料を提供しています。しかし、それ以下の注文の場合、重量、配送方法、宛先ごとに送料を計算し、つまり、テーブルレートで料金を設定します。
Shopify店舗における送料の設定方法は、こちらをご参考ください。
2. 配送ポリシーページの作成
配送ポリシー(Shipping Policy)とは、お客様が送料や商品受け取り、返品・交換・キャンセル、発送処理期間などについて確認できるページを指します。
お客様にとってとても重要な内容なので、自社ECサイトの配送ポリシーを作成する際はできるだけ詳しく、かつ分かりやすく記載することが大切です。
では、オンラインショップの配送ポリシーページにどういう情報にするべきか、一緒にチェックしてみましょう。
配送業者、又は配送方法
この項目では、海外発送に利用する配送業者名をリストアップします。しかし、配送業社名の記載は必須項目ではありません。配送業者の社名を記載してしまうと、必ずその業者を利用しなければなりません。仮に、規格外手数料や、遠隔地手数料などの送料以外の手数料が発生してしまう地域への発送の場合、他の業者に変更することが簡単にできなくなります。
そのため、配送業社名を記載するのではなく、「Express Shipping」や「Standard Shipping」などと表示することをお勧めします。
特に複数の配送業者を利用する場合、Expres Shippingに対してどの運送会社を利用するかは、お客様が選ぶのではなく、自社で最終的な送料を比較しながら決めることができるからです。
送料
この項目では、発送先のエリア毎の送料を記載します。そして、「送料無料」を提供する場合、どのような条件があるか(ooドル以上お買い上げの場合送料無料、など)分かりやすく確認できるように書かれていると、お客様にとって購入の決断をしやすくなります。
営業日
この項目は、サポートセンターの営業日についてです。例えば、発送に関するお問い合わせをする際、いつ対応できるのか、わかりやすく表記すべきです。海外にいらっしゃるお客様は、発送に不安を感じやすいため、オンラインショップ全体が良い印象を与えられるように、営業日や時間帯も記載すると良いと思います。
発送処理期間
注文を受けた後、発送するまでどのくらいの時間がかかるのか、わかるように記載しておきましょう。「2営業日以内の発送となります。(Ship within 2 business days)」など、平均的な注文処理期間が記載されていると、お客様の発送に対する心配を削減できます。
配送状況の確認方法
海外販売の際に「Where is my order? (WISMO)」という質問がよくあります。それは、発送した後、お客様が「荷物はいつ届くの?」と疑問に思うことです。当たり前のようなことですが、オンラインショップ側で大事なのは、その疑問にきちんと答えることです。Shopifyの場合、追跡機能のある通知メールが送信できますが、基本的な配送状況の確認方法や追跡のリンクを配送ポリシーページに記載すると、オンラインショップとしての信頼感を築くことができます。
発送時の問題への対応
海外発送は、国内発送と比べて、発送時のトラブルが比較的多いと言われています。輸送中に物が壊れたり、荷物が紛失するなど、様々な問題が発生します。そこで、オンラインショップに予め「こういった問題があればどう対応すれば良いか」ということについて記載していると、お客様が安心感を持ってチェックアウトまで進むことができます。
では、Bento&coは配送ポリシーをどう記載しているのか、ご紹介します。
Bento&coでは、「サポートセンター」をShopifyの機能で作成しました。サポートセンターの中には「Shipping & Tracking (配送と追跡)」、「Order Information (注文の詳細)」、「Payment (決済)」など、以下のように複数のトピックに分けられています。Bento&coではこのように一つのページで全てサポート情報がわかるようにデザインしました。
例えば、Shipping & Tracking (配送と追跡) というトピックの詳細を見ると、以下のように、「よくある質問事項」として一件ずつ説明する仕組みになっています。
3. 税金の扱い
越境EC販売における大事なポイントは、「関税諸費用の支払い方法を決定すること」です。海外に荷物を送るには、送料の他に、関税等諸費用というのがかかります。宛先・発送先の国によってそれぞれ異なりますので、実際に海外向けのECショップの運営をスタートする前に確認しておきましょう。
まず、1つ目は、「関税の支払い方法(インコタームズ)」です。よく導入されるのは、以下の2種類があります。
- DDU (Delivered Duty Unpaid):荷受人が関税を支払う義務があることを意味します。
- DDP (Delivered Duty Paid):荷送人が関税を支払う義務があることを意味します。
では、自社に合っている関税の支払い方法はどちらになるのでしょうか。以下のポイントを考慮して決定しましょう。
- 商品の価格:価格の高い商品の場合やBtoB取引の場合には、DDPで発送する事業者が多いです。DDPの場合、荷物が宛先の税関に届くと、確認後、関税の支払いプロセスなどが一切必要なく、通過して発送まで可能ですので、より早いと言われています。しかし、BtoCで通常の販売だと、DDUで発送する事業者が多いです。DDUの方が、EC事業者にとって手続きが簡単です。
- 商品の種類(カテゴリとHSコード):商品の種類によって関税の割合(価格)が異なるので、取扱商品が分類されるカテゴリの関税の計算方法を確認しておいた方が良いでしょう。
- 宛先と発送元:国によって関税制度が異なりますので、日本から主にどの国に発送するかを決定し、その国宛に送る場合の関税の情報について事前に確認しておきましょう。価格が低い場合は関税がかからないケースもあります。
通常、立ち上げ当初に導入されるインコタームズは、DDU (Delivered Duty Unpaid) で、最も使われている関税の支払い方法とも言えます。EC事業者に対して最も手間とコストのかからない、シンプルな方法です。
Bento&coでは、通常のBtoC発送がDDU扱い、BtoB向けの店舗の発送はDDPで対応しています。また、Bento&coのオンラインショップには、購入者が事前に関税のことを理解できるよう「Taxes & Custom fees」のページもあります。
4. 越境ECサイト構築対応の制作会社を選ぶポイント
最後に、制作会社について触れておきたいと思います。自由度が高く、マーチャント自らノーコードで立ち上げることが可能なShopifyですが、「全てをまかなうには人手が足りない」「頑張ってみたけれど思い通りに作り切れない」など、踏み切るには悩みが尽きないはず。体制が整わなくてもどうしても「自社ECサイトをShopifyで作成したい!」場合は、自社で全て行うよりも、Shopifyのプロである制作会社に頼ることをお勧めします。
ここで言う制作会社は、「Shopifyパートナー」のことです。Shopifyパートナーは、Shopifyから公式認定された、Shopifyに関するサービスなどを提供する会社・フリーランスを意味します。
扱う商材が海外への販売を視野に入れている場合は、「越境ECサイトの構築」の可否も重要に。以下のポイントを踏まえて、ストア構築のパートナーを選ぶと良いでしょう。
- サポート体制:導入の前にサポート体制が充実しているかを確認する
- 実際の予算:実際に発生するコストは、自社の予算と企画に合っているかを確認する
- Shopifyサイト構築の実績:越境EC向けの店舗の事例を色々確認しながら、自社が求めているイメージに合っているかを確認する
- 得意分野:提供しているサービスの特徴を確認し、サービス内容と得意分野は、自社のニーズや課題をカバーできるのかを確認する
自社ECサイトをどうしていきたいか、よく考えながら、各制作会社から情報を得て、それぞれ比較し、最も自社と合っている会社を選ぶことが大切です。
国内のみならず、広大な海外をターゲットに自慢のブランドを展開するのも、Shopifyなら低いハードルでスタートできます。是非一緒に越境ECに挑戦してみませんか。