「State of Commerce」は、Eコマース運営の影の主役である、EC制作やアプリ開発、物流や在庫管理、集客などの現場を通じて、顧客や市場へ価値をつくりだしているスペシャリストの方々に焦点を当てるインタビューシリーズです。現場の最前線が肌で感じていることを自らの言葉で語って頂くことで、Eコマースの現在の輪郭を少しでも捉えることができればと考えています。 (インタビュー一覧はこちらから)
第3回は、手前味噌でたいへん恐縮ですが、2021年10月に Shopify のポイントアプリ「どこポイ」をリリースしたリワイアから、取締役の加藤英也とエンジニアの東真也に話を聞いてみました!
※インタビューは2021年10月に行われました
コミュニケーションの一つの形態としてのポイント機能
ーー 先日 Shopify で「どこポイ」というアプリをリリースしましたが、出すまでは幾つかのヤマがあって息継ぎなしでみんな大変でしたよね。大変だったからこそ振り返る時間は大事かなと思ってこの場を設けました。まず、そもそもなんで「ポイント」だったのか、というところを改めて聞いておきたいです。
加藤:ポイント機能に絞った理由はいろいろありますが、まず大きな前提として「ポイントを使う」という文化が日本にあるということですね。モールの影響が大きいとは思いますが、あらゆる場面でポイントは使われていて、Eコマースの機能としてイメージしやすい。にもかかわらず、 Shopify の基本機能としては用意されていないんです。
株式会社リワイア 取締役COO
リワイア取締役 COO として Shopify を中心としたコマーステック領域のインテグレーションを中心を担当。ストア構築だけではなく、各種外部サービスとの連携やアプリの実装など今後さらに重要になる EC でのテクノロジー領域にフォーカスして活動中。
エンジニアとしての技術視点や経営視点、クリエイティブなどいろんな経験をつなげる話が好物。
加藤:ストアを構築・運営するうえで必要十分な機能が Shopify のコア技術として搭載されていて、それ以外のショップ独自のものはアプリのエコシステムでカバーしていこうというのが Shopify の思想だと思います。だからポイントは標準で搭載されていません。
海外ではロイヤリティマーケティングという考え方があって、例えば「複数回購入すればポイントが貯まってクーポンがもらえます」みたいなのはもちろんあるんですけど、日本みたいに1ポイントずつ好きなときに使えるような仕組みは実は珍しい。だからアプリも日本の感覚に合うものは結構レアで、だったらそこに挑戦してみようかなというのがきっかけです。
ーー その話はマーチャントさんからもよく聞いてましたよね。
加藤:もう少し付け加えるとすれば、せっかく Shopify でモールではない自社ストアをつくるわけですから、売上や利益率だけではなく、自社のお客さまとコミュニケーションを取り続けられる場所としての価値は大きいと思います。
「どこでも同じものが買えて違うのは値段だけ」という世界ではなくて、そこでしか買えない、そこでしか情報が得られない、そこに行ってそこで買う理由をつくれるのが自社ストアだとすると、その自社とお客さまとのつながりの潤滑油というか、評価できるものが作れたらいいという視点からポイントの意味を捉えなおしたいと思ったところが大きいですかね。
ーー なるほど〜。ちなみにどういう議論の展開でそこに至ったんでしょうか。他にも候補はあったと思うので。
東:Shopify のアプリの中で何があったら便利か、というのを調べていく中で、ポイントは日本の商習慣に合わせて使えるものが少ないなとは思ってました。今は国内のポイントアプリも増えてきたので、あくまでリサーチ当初はという意味ですけど。
もちろん有料で提供している機能とかで補完できるものもあったりはするんですが、それが標準で搭載されていて、最初からある程度機能的に満たされているポイントアプリなら提供する価値があるんじゃないかという感じで進んでいったと記憶しています。
株式会社リワイア エンジニア
リワイアの開発リードエンジニアとして Shopify アプリを中心に設計から開発までをフルスタックで行う。個人でのサービス開発の経験やフルスクラッチでの EC 開発の経験を活かし、現在はフロントエンドだけでなく各種外部サービスとの連携からバックエンドまで、EC でのテクノロジー領域にフォーカスして活動中。
Twitter や Slack で Shopify の情報を見るのが最近の日課。福岡在住。
ーー いろいろ検討する中で、どこかで「これは…ポイントじゃね?」みたいな瞬間があったんですね。
東:そうですね。やっぱりポイントは圧倒的に分かりやすいというか、ロイヤリティマーケティングというとわかる人にしか伝わらないですけど、ポイントと言えば伝わる。「伝えるためにもフォーカスを絞らないとね」という話は社内でもしていたと思います。
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ーー 最初に「ポイントやります」って聞いたときは「え、最初なのにそんなに重いやつ!?」とは思いました(笑)
加藤:もっとかんたんで単機能のアプリを作ってからにしようという意見はありましたけど、難しいのは承知のうえで、やってみようと(笑)
東:うん、「重いな」って思いましたけど(笑) Shopify ってたくさんのテーマがあるので、どのサイトでも違和感のない UI / UX のポイントアプリを実現するってすごいチャレンジやし意義もある仕事やなと思って、「おし、やったろ」と思いました。
ーー Eコマースに詳しい人ほどポイント否定派が多いと思うんですけど、ユーザーからしたら「ポイントがないストアでは買わない」「似たようなものならポイントの有無で決める」という層もまた分厚いですよね。ポイントがあるからブランディングできないわけではないし、ブランディングとポイントはそもそもトレードオフの関係にないはずですしね。オペレーションコストとして見合うのなら、無理に遠ざける必要はないと思います。
加藤:コミュニケーションのかたちはお店ごとにそれぞれでいいと思うんですよね。選択肢がないほうが辛いので、ないならつくったほうがいいと、そんな感じでスタートしました。
「Online Store 2.0」の衝撃
ーー 開発していくうえで幾つか山場があったと思うんですけど、大変だったところを教えてください。
加藤:やっぱり「Shopify UNITE 2021」じゃないですかね。
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東:「Online Store 2.0」は衝撃が走りましたね。。。
ーー 全体としてはとてもポジティブな内容でしたが、開発面はチャレンジもあったと。
東:開発当初は「とりあえず早く動くものを」と思って自分が一番使い慣れている Django というフレームワークで進めていたんですが、「Shopify UNITE 2021」を見て「これは React で作った方が今後恩恵がありそうだな」と思ったので、議論したうえでフロント側はぜんぶ作り直したんですよね。
ーー もはや React からは逃れられない。
東:そうですね、7月にいろいろ試してみて、8月以降は React ですべて作り変えました。
加藤:「Online Store 2.0」が発表されて、アプリの導入とテーマの実装が、ある程度棲み分けられるようになりました。今まではコーディングしないといけなかったものが、エディタで入れられるようになる。そのぶんアプリ側ではエディタに入れる部分の追加開発が必要だったりするんですが。
大変だったのは、これまでの既存のストアは「Online Store 2.0」に対応してないテーマで動いているので、旧型と新型、それぞれの仕組みの両方に対応しないといけない、というところでした。
東:ずっと「Coming Soon」だったので(笑)
加藤:そう。6月30日に発表されたあと、詳細がずっと発表されてなくて(笑)。いつになったら決まるんだろうという期間が長かったので、その中で、手許にある情報だけで「Online Store 2.0」に対応させた仕組みを作ろうって試行錯誤していた時期がなかなか大変でしたね。
ーー あのときは書籍の執筆 (※) もギリギリのタイミングだったから、大変でしたね。
※『いちばんやさしいShopiyの教本』の最終入稿は7月末だった
加藤:そうでした(笑)。執筆も開発もぜんぶやり直していて忙しかったですね。デザイナーやサポートのメンバーにも助けられて何とかリリースできました。
東:大変でしたけど、最終的にぜんぶ React にするって舵を切ってよかったなと思います。やっぱり、Shopify ってとにかく必要なものは何でも提供してくれてる会社だということがよく理解できましたし、アプリを開発する際に気を付けるべきポイントもひと通り学べたので、次はもっとスムーズに出せるんじゃないかと!
Shopify は開発者と一緒に伸ばしていく意思のある会社
ーー Shopify の開発のしやすさ、みんな言いますよね。じっさいドキュメントは非常に充実していると思います。
東:さっき「最初は Django で作っていた」と言いましたけど、Shopify がすごいのは、React 以外でも Ruby や Python でも作れるようにライブラリを提供してくれていることです。めちゃくちゃ幅広く対応してくれているんやなと強く認識できました。
加藤:エンジニアの会社って感じがしますよね。「Online Store 2.0」発表当初は、もちろんわかりやすいように「こういう画面になりますよ」「こういうシステムになりますよ」という説明なんですが、同時に開発者向けドキュメントも刷新されて、情報の網羅性や見やすさが改善されていたり、開発者向けのツールも新しくなりました。
たとえば開発者としては機能の雛形があった方が作りやすいのですが、今回のアップデートで Shopify CLI というものが登場して新しくなっています。雛形のうえで本番環境に上げることができたりするので、かなり手厚い開発環境の手引きみたいな感じです。
いろいろと変化が激しい中、そういう恩恵を受けながら進められたのが大きかったなと思いますね。
ーー リリースに合わせて必要なものがちゃんと用意されていると。
加藤:はい、パートナーに開発してもらって一緒に伸ばしていくということを前提にしたシステムだと思います。コア機能のリリースと同時に、その周辺にいる開発パートナーやアプリパートナーをちゃんと盛り上げていこうという意思を感じましたね。
ーー 「Sections Everywhere」もずいぶん待たされましたけど、それも含めてぜんぶ技術や思想的につながっているということなんでしょうね。
東:何というか、ちゃんとしてますよね。
加藤:うん、ちゃんとしてる(笑)。API も幅というか、懐が深いなという感じがしています。
ーー 「API のカタマリ」みたいな表現してましたよね。以前。
加藤:ですね。ふつうは API というと、「一部のデータの出し入れができます」とか、「この項目のマニピュレーションができます」といった比較的制限の強い中での自由度なんですが、Shopify はほぼすべての機能が API として提供されていて、そのカタマリで Shopify 自体ができているみたいなイメージです。
GraphQL であったりとか、もちろん Liquid であったりとか、React なんかも含めて中心となるものはあるにせよ、サービスそのものと API とが同期されているデータの構造と設計になっているので、何というか、我々はアプリを作っているんですけど…
東:拡張のマクロを組んでいるような感じなんですよね。
ーー おもしろいなあ。
エンジニアのコミュニティと連帯
東:API については同感で、使いやすいなあと思うことが多かったです。「ちゃんと JSON で返ってくるー!」とか思いましたもん。XML とかで返ってくる API も多い中、取り出しやすい形式で返ってくるのはありがたかったです。
ーー データ構造の柔軟性はありますよね。
加藤:整備されていてありがたいですね。作ってて「楽しい」と思います。
東:あまり詳細には言えないんですけど、リリース前にちょっとしたトラブルがあって、あのときは Shopify らしいというか、コミュニティの力を感じました。
ある仕様変更というか、たぶんちょっとしたミスだったと思うんですけど、うちだけじゃなくて海外のエンジニアの人らも「やばい」みたいな感じで焦るようなことがあって、Slack のコミュニティでずっとやり取りしていたんですが、そのうち中の人も登場して検証したりして。
ーー 開発のチャンネルでもアワアワしてましたね…そういえば
加藤:結局その週末に解消されて事なきをえたんですが、世界中のみんなでワイワイとコミュニケーションをとりながら進めていくのは Shopify らしいというか、コミュニティの厚みを感じました。
東:めっちゃ焦りましたけど、振り返ると面白かったですね(笑)
ーー そのあたりのカジュアルさというか、ヨコの連帯がまた開発者を惹きつけるのかもしれませんね。
Shopify Flow に期待
ーー アプリの話からスタートしましたけど、アプリに限らず、今後 Shopify で注目している動きや機能はありますか?
加藤:個人的には Shopify Flow ですね。現在は最上位版の Shopify Plus 限定の機能ですが、それが通常のプランでも使えるようになるという話があるので。
参考ツイート
Shopify Flow is expanding to merchants beyond Plus, this is a huge step of removing the gap between core and Plus.
— Taylor 🍕 (@TaylorSicard) October 13, 2021
ーー あれはアツいニュースでしたね。Shopify Flow がもしデフォルトになると、現在の App Store にあるアプリの役割も少しずつアップデートを求められると思います。
加藤:そうですね。あれはストアのオペレーションを大きく変える可能性があるのですごく注目しています。アプリだけでなく、ショップの構築から運用まで、Shopify Flow はいつか外せない機能になるだろうなとは思います。
ーー 究極的には、Shopify というプラットフォームを進化させればさせるほど、どうしてもアプリケーション側には直接的に影響が出てくるわけだから、そこの舵取りは常に注目してないといけないですよね。アプリは常に新陳代謝を求められているわけだし、プラットフォームの進化以上にアプリは便利になっていく必要があると。
加藤:例えば、擬似的にタグ付けで共有できたり拡張できるものって世の中にたくさんあると思うんですよ。だからこそメタフィールドは管理画面に出てきたわけだし、そのためにタグ付け機能は存在していると思うので。
プラットフォームで設定できる機能が増えれば、それに連携して価値を増すアプリは増えるはずだと思います。
ーー 相互に連携しあうエコシステムそのものですね。
東:機能以外でいうと、やっぱりいろんなストアさんに試してもらっていて様々なフィードバックをいただけるので、自分でも Shopify を使ってモノを売る経験をしたほうがいいなと思ってます。
ーー いいですね。
東:オンラインとオフラインの融合もそうだし、ERP との接続というリリースもあったので、カスタムストアフロント的な連携はやっぱり大事ですね。そういうところも挑戦してみたいです。
ーー ふたりの話をつなげると、やっぱりキーワードとしては「連携」になるのかなと思いました。今日はありがとうございました!
編集後記
シリーズ3回目にして内輪のインタビューでしたが、開発の初期から横目でずっと見ているだけに、思わずインタビュアーという立場を忘れて楽しんで話し込んでしまいました。
開発期間中に「Online Store 2.0」の発表があり、大きな変化のうねりの中で右往左往しながら開発したことが、今後のリリースの大きな礎になっていると思います。
「Shopify は開発者にやさしい」という表現は、API の充実やドキュメントの奥深さだけでなく、そこへ集うパートナーの横の連帯意識のようなものがスパイスになっているのかなと思ったりしています。(パートナーにいい人が多いのは偶然ではないはず)
次のアプリでもまた振り返り会をやりましょう〜!
どこポイ公式サイト