SFDCによるMobifyの買収から見えてくる、コマースの垂直統合の可能性。

Mobifyは巨人の一部に

2020年9月、セールスフォース(SFDC)がヘッドレスコマースの Mobify を6000万ドルで買収したと発表しました。

参考:Salesforce Closes Acquisition of Mobify

Mobify のCEOは、買収の発表時に

デジタルファーストの経済圏で成功するには、単純なストアフロントを構築するだけでは不十分。そこに、スピード、インテリジェンス、柔軟性、スケーラビリティがないと、クロスチャンネルで顧客との関係を維持できず、企業が迅速に成長できない

というコメントを残しています。ヘッドレスコマースがどうして誕生したか、どういったジョブを解決するのか、その意味を端的に示した言葉だと思います。

垂直統合の潤滑油であるMulesoft


この買収により、Salesforce Commerce Cloud フロントエンドは Mobify ベースになるようです。

ヘッドレスの利点はフロントエンドとバックエンドの分離によるスピーディな疎結合(配線)ですが、今回の発表を見る限り単純に資産として Mobify を所有するというだけでなく、SFDCのコマース製品とのマイグレーション(垂直統合)を前提としているようですので、既存クライアントからは便利に映る一方で、新規顧客については軽さよりも重さの方が際立つように見えてしまう可能性があります。一般に、垂直統合は技術革新のペースが遅くなると言われるからです。

つまり、将来にわたって開発ペースと柔軟性が維持できるかがこの買収のカギになるわけですが、SFDCは子会社にシステム間の疎結合をサポートする Mulesoft を保有しており、これが様々なシステムやSaaSとのパイプ役になるのではないかと考えられます。

Mulesoft-logo
ちなみに Mobify の CEO は2019年からセールスフォースのパートナーアドバイザリーボード(コマース担当)に名を連ねていますので、今回の買収はそういった垂直統合による機動性の減退に可能な限り配慮したうえで決められているような気がします。コロナ禍によってむしろ機が熟したという感じなのかもしれません。

個人的には、Mulesoft のような再配線を促進するETL的ビジネスが、垂直統合に水平分業的なアプローチをもたらし、以前よりもスムーズに M&A を進めていく原動力になっているのではないかと感じています。

そして、今後もますます発展していくヘッドレスコマースの市場を見ていくにあたり、この視点は重要である気がします。SFDC と Mobify のディールが数年後にどのような結果をもたらしているのか、個人的にはとても注目しています。