人がモノやサービスを「買おう」と決める瞬間には、いったいどのような情報が影響しているのでしょうか?
それはもちろん、一人ひとり、瞬間ごとに違います。Google は2016年にマイクロモーメントという概念で、その一つひとつ違っている瞬間にアプローチすることの重要性を提唱しました。
あれから4年経った2020年、一つひとつの瞬間を膨大な数積み上げて抽象化していくことで、消費者の行動科学(Behavioural science)の認知モデルに沿って説明可能であると、改めて Google が説明しています。
この記事では2020年7月に Google が発表した購入者の意思決定プロセスに関する調査結果の中から、人がモノやサービスを買うときに影響される代表的な6つの認知バイアスについてご紹介したいと思います。
※調査結果はこちらからダウンロードできます(PDFが開きます)
ちなみにこの調査資料はかなりのボリュームで、読み込むとかなり面白いです(私のような非英語話者には大変ですが…)。ちゃんと紹介しようとするとそれだけでもう何記事か書けそうなので、またそのうち続編を書きたいと思います。
6つの認知バイアスとは
人が商品を買うための意思決定のぐるぐるとしたサイクルの中にいるときに、認知バイアスはその行動に影響を与え、その製品を選ぶ理由をつくりあげます。
行動科学ではこういったバイアスが約 300 ほど存在するとされていますが、Google の調査では以下の 6 つを代表的なものとして挙げています。
購入に影響を与える6つのバイアス
- カテゴリヒューリスティック
- 権威バイアス
- 社会的証明
- NOWのちから
- 希少性バイアス
- 無料のちから
調査では、実際に31万件の購入シナリオをシミュレートし、これらのバイアスがショッピングにおける意思決定の傾向にどのような影響を与えるのか検証したそうです。
さっそく、順番に見ていきましょう!
1.カテゴリヒューリスティック
カテゴリヒューリスティックとは、目の前にある選択肢の中でどれかを選ぶために参照する情報や経験則のことです。身近なところで例えると、スマートフォンを購入する際のカメラの画素数(Pixels)や通信プラン(GB)ですね。 本来、多機能なスマートフォンは比較可能な情報は多いはずです。それをギュッと絞り込むことで複雑な意思決定がショートカットできます。 プリンストン大学の心理学者によると、ヒューリスティックは以下のような作用があるようです。ものすごくざっくり言うと「判断を簡素化することで意思決定に使うエネルギーを削減している」ということですね。何かを決めるのには想像するよりカロリーを消費しますので。 ・より少ない情報で検討させる ・アクセスしやすい情報に(判断を)寄せる ・情報の重み付けをシンプルにさせる ・意思決定プロセスにシンプル化した情報を統合させる ・全体的に少ない選択肢で考えさせる
2.権威バイアス
権威バイアスとは、あるテーマについて権威がある(と思われる)人の意見や行動を見聞きして自分の意見や行動を変えてしまう傾向のことです。 自分自身の判断に確信が持てないとき、人は信頼できる人や専門家の意見に追従してしまうという経験は誰しもあると思います。 ある実験では、有名な経済学者からアドバイスを受けた学生の脳内では意思決定を司る部分の活動が低下していることが分かったとのこと。専門家に意思決定プロセス委ねているために、脳が「もう考えなくていいや」となってしまうということですね。
3.社会的証明
社会的証明と書くとむずかしそうですが、分かりやすくいうと「評判」のことです。 インターネットでは口コミがデジタル化・可視化されているので、この口コミをレコメンデーションと結びつけることで、人の判断に強い影響を与えます。 通販サイトのレビューを読むことによって無意識のうちに判断に影響を受けたり、普段目にする広告でも、何も表示されていないものよりは4つ星や5つ星の評価が表示される方が「人気がありそう?」とクリックしてしまいがちですよね。
4.NOWのちから
NOWのちから(Power of now)は、人が「今この瞬間にほしい」と感じる生き物だということです。目の前にある困難な問題に繰り返し対処することで進化してきたため、人は将来価値よりも現在価値を優先するように設計されているといいます。 物理的な制約がなければ通販よりもすぐに買える店舗の方が有利でしょうし、Eコマースでも即日配送は何よりも好まれます。
5.希少性バイアス
希少性バイアスとは、珍しいものや限られた資源の方が価値が高いという経済原理のことです。一点モノ、限定モノに高い値段がつくのは希少性バイアスの結果だといえるでしょう。 希少性は通常、次の3つの形態のいずれかを取ります。 時間制限:入手できる可能性に時間的な制限がある場合、時間切れになる前に行動を起こす動機づけになります。 数量制限:供給が少ない、あるい頻度が少ない場合、人は選択の自由が侵されると感じ、その自由の確保のために強く反応します。 アクセス制限:情報、グループ、場所などへのアクセスが制限されていると、人はその「制限されている」という状態をより重視するようになります。独占が特別感を生むからです。
6.無料のちから
「無料」という言葉の持つ力は大きいです。同一製品では、送料が有料(わずかな金額)の場合と無料の場合とでは、仮に他のオプションに差があったとしても有意に送料無料の方が好まれます。 行動経済学者のダン・アリエリーは、著書『予想通りに不合理』の中で、人が2つの選択肢を与えられた際の行動について有名な例を挙げています。 1つは無料の 10 ドルの Amazon ギフトカードで、もう1つは 7 ドルで購入できる 20 ドルのギフトカードでした。7 ドルのカードの方が価値としては大きいにもかかわらず、多くの人が 10 ドルのギフトカードを選択しました。 無料という言葉は、感情のスイッチなのかもしれません。
バイアスをどう活かすのか
調査にあたって行われた 31 万件の購入シナリオシミュレーションでは、買い物客はカテゴリ内で1番目と2番目のお気に入りのブランドを選択するように求められ、その後に上記のバイアスを利用して、最初に選択したお気に入りブランドから別のブランド(架空のものも含む)に切り替えるかどうかをテストしたそうです。
その結果、最も目立たない架空のシリアルブランドであっても、5つ星のレビューや、20%の追加オファーなどのメリットが過剰にドーピングされると、全体の28%でお気に入りブランドとして登録されるという結果が出たとのこと。
最も極端なケースでは、架空の自動車保険会社が、6つのバイアスすべてを投入したところなんと87%のシェアをを獲得したという結果もありました。お、おそろしい。。。
この結果は、企業が誠実でないかたちでハック(悪用)することの怖さを物語っています。
だからこそ、この資料では「行動科学の原則をインテリジェントかつ責任を持って採用すること(Employ behavioral science principles intelligently and responsibly)」と明記されています。顧客やマーケットに対して誠実な態度こそが最も大事だということですね。
重要なのは、6つのバイアスを無理やり適用することではなく、意思決定に必要な情報と安心感を自然なかたちでユーザーへ提供することではないでしょうか。
それが前提になっていれば、消費者に選んでもらうための予備知識として、この6つのバイアスはEコマース事業者の武器になるはずです。