小売が投資すべき分野のトップ10とは
2020年10月、UKを中心に小売の運用プラットフォームを提供する Brightpearl が、定点観測しているリテールテックの最新版レポートをリリースしています。
Retail technology news and analysis for omnichannel retailers
レポートは UK を代表するEコマース企業500社のアンケート回答を分母としており、今後12ヶ月間に投資する分野のランキング等が含まれています。
対象とする国は違えども、世界中で等しく COVID-19 の影響を受けた2020年のEコマースをめぐる状況は、どの先進国でも一定の相似性を帯びているように思います。日本でも参考になる部分が多いはずです。
3分の2以上の企業が、テクノロジーへの投資を増やす予定
アンケートに回答した小売業者の68%は、今後12ヶ月の間にテクノロジー(具体的にはEコマースのソフトウェア)への投資を増やすと計画しています。
では、具体的にどのような分野が投資の対象となるかというと、ランキングは以下のようになっています。
2021年に向けた投資優先度トップ10
- パーソナライゼーション(64%)
- ソーシャルメディアマーケティング(63%)
- 支払いオプションの追加(62%)
- 在庫管理ソフト(62%)
- バーコードスキャン(61%)
- 配送のトラッキング(59%)
- 店舗受け取りサービス(58% )
- 注文管理ソフト(57%)
- 返品管理ソフト(56%)
- ビジネスインテリジェンスおよび実績レポート(55%)
技術への投資は、ワークフローへの投資
ランキング1位のパーソナライゼーション(Web Personalization)、レポートではその具体的な例として「製品ごとのレビューツール」や「ライブチャット等の個別対応」などが挙げられています。
これらのソフトウェアは基本的に現在では SaaS として提供されていることがほとんどですが、ソフトウェア単体の投資コストが問題になることは少なく、むしろそれにまつわるシステム間のつなぎ込みやワークフローの整備、人員のアサインなど、周辺となる基幹業務の改変や仕様の確立に課題があるケースが多いと考えられます。
例えば Shopify ではデフォルトで動的チェックアウトボタンという、訪問しているユーザーの動向に合わせたカート表示の自動提案機能が提供されていますが、こういった追加の投資を意識しなくても済むテクノロジーの普及は、パーソナライゼーションの実装を進める上で重要な方法論なのかもしれません。(3位の支払オプションの追加と合わせてこそ効果が上がる仕組みでもあります)
次いでバーコードスキャンや店舗受け取りサービスは、COVID-19以降に上昇したトレンドです。春のロックダウン期間中にカーブサイドピックアップが注目されたように、2020年に入ってから強制的に実務が O2O へと移行した企業は多いはずです。
Square Online や Shopify POS のようなオンラインとオフラインを統合するようなソリューションが各社から迅速にリリースされたのは、コロナによってマーチャント側のOMOニーズが急激に高まったことが背景にあるのは間違いありません。
その他、在庫管理ソフト、配送トラッキング、注文管理ソフト、返品管理ソフトなどは、オンライン販売の規模が拡大していくにしたがい、倉庫や物流とECプラットフォームとのつなぎ込みや運用の強化が課題となっていることを改めて浮き彫りする結果だといえます。
(このレポートを提供した Brightpearl がそういったサービスを提供する事業者ですので若干我田引水感はありますが)
いずれにせよ、ソフトウェア自体への投資が課題なのではなく、ソフトウェアを契機にして自社の業務変革を行うことがセットであるがゆえに、一見安価に見えるコストに比して意思決定には時間がかかる、ということなのかもしれません。
既にオーバーフローしている選択肢が課題
小売業者の68%が今後12か月でテクノロジーへの投資を増やすことを計画している一方で、別の設問では、51%の事業者は多すぎる選択肢に悩まされており、そのうち40%はテクノロジーへの投資を停止していると書かれています。
ソフトウェアのリプレイス自体は容易でも、それとセットになるワークフローの変革は容易ではありません。「斜陽になるソフトウェアに社運を賭けるわけにはいかないから慎重に見極めたい」という企業側のホンネが見え隠れするようなアンケート結果ですね。
以前の記事でも言及していますが、パンデミックが始まって以来、オンラインでの支出は増え続けています。
その恩恵を一番受けているのはトラフィックの元締めになっている Google や EC を寡占化していると言っても過言ではない Amazon といったプラットフォームです。
自らのブランドを持つEコマース企業は、決済や在庫管理、配送をはじめとした店舗運営周辺のシステム、ツールの選択肢の多様化(それを統合するERP化の流れ)と、これらのトラフィックを司るプラットフォームとの接続をタイムリーにこなしていかなければなりません。
彼らは UI や API のアップデートが激しく、日々の生産活動と両立させるのは至難の業です。
だからこそ、Shopify のような企業は「コマースのOS」を標榜し、自らを基幹化することでこの変化に耐えうる環境をEコマース各社に提供することを目指しているのだと思います。
そして、多様化が進めば進むほど、各プラットフォームの仕組みを理解し、各々のビジネスの事情やサイズに合わせたシステムや運用の設計がこれまで以上に重要性を増すものと考えられます。
Brightpearl の CEO は、以下のようにコメントしています:
残念ながら、「時間」は小売企業が持つには少し贅沢な品です。(中略) 時間をかけて自社顧客の購買体験を精査し、購入フローにおける改善点やボトルネックを特定したあとは、すみやかに目的に合う支援が提供できる適切なパートナーを募集する必要があります。
Eコマースが進化するスピードは上がっていくばかりですが、その速さに振り落とされないように伴走する適切なパートナーを見極める審美眼が、実は最も必要な投資なのかもしれませんね!