業務範囲の幅広さから「総合格闘技」とも呼ばれるEコマースの中でも、特に重要な役割の一つがフルフィルメント(注文から配送に至る一連の業務)です。そして、その中でカスタマーの体験にもっとも影響するのが「物流」ではないかと思います。
2020年以降のEC需要の急騰により「ラストワンマイル」と呼ばれる配送市場は膨張し、今や3兆円に迫る規模だと言われています。そして2022年現在は、様々なプレイヤーが物流・配送に参入してきています。
物流という費用を利益に変えたAmazon
プラットフォームとして、最も物流に投資しているのは Amazon です。象徴的な投資として、今から10年前の2012年に倉庫ロボット企業の Kiva を7億7500万ドル(約900億円)で買収したことなどが挙げられますが、その後のドローンや自動配送など、フルフィルメントへ継続的に多大な投資を続けているのはご存知のとおりです。
Amazon は、創業時の事業(ネット書店)における2大コストセンターだった「サーバー」と「倉庫」を、時間をかけてそれぞれ「AWS」「FBA」という現在の2大プロフィットセンターへと変貌させてきました。これはまさに継続的な投資の賜物だと言えるでしょう。
ラストワンマイルの小口配送サービスを継続的に強化していく理由として、自社(Amazon)を利用するユーザーからの膨大なトランザクションという需要のみならず、Amazon というマーケットプレイスに参加するマーチャント(サードパーティーの小売事業者)のフルフィルメントニーズを、FBAというかたちで満たすことで、さらにマーケットプレイスを広げられることが挙げられます。
ここで、大手配送会社(アメリカであれば UPS、FedEx など)と比較して Amazon の物流網の優位性は何かと考えると、それは Amazon 自身が自社サービスの最大のユーザーであるという点です。ドッグフーディングを、パートナーや顧客に頼らずに日々自分たちで行うことができる、ということかなと思います。
たとえば一般の物流企業は、配送時にミスがあったとしても、そのミスについてのフィードバックの何割かはマーチャントに向かいます(大半かもしれません)。品質がEC事業者と物流事業者のどちらに起因するのかが構造的に曖昧で、荷物の破損や行方不明、繁忙期の配送遅延などの物流側の問題を、EC事業者と折半するという構造とも言えます。
一方で、 Amazon の場合は(Amazon自体が最大のマーチャントでもあるため)そういった曖昧さが適用されず、配送のパフォーマンスに問題があった場合のフィードバックは直接 Amazon 自体に戻ってきます。FBA によって倉庫から配送までのオペレーションが外部化されたことで、フィードバックループが迅速に閉じられ、品質のモニタリングやコスト効率、顧客の要望といった経営上の重要なデータをリアルタイムで把握できることになります。それが結果的に FBA の肥やしとなり、マーケットプレイスの強化につながっていきます。
以前、以下の記事で IPI(在庫パフォーマンス指標)による Amazon 広告の最適化について解説しましたが、フルフィルメントのデータが別の事業の収益化に貢献している、という事実は無視できません。それぞれの事業が連動してはずみ車のような役割を担っているということですね。。。
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物流網を再構築するShopify
一方の Shopify にも動きがあります。2022年1月22日、ビジネスメディアの Insider が「Shopifyが複数のフルフィルメントパートナーとの契約を打ち切った」という記事を公開しました。
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記事では、今回の打ち切り対象となったフルフィルメント会社(4社)のうちの2社が「Shopify Fulfillment Network(SFN)は、今回の方針転換でマーチャント向けの注文を梱包・発送するキャパシティがこれまでの約半分になる見込み」と発言したことが引用されており、物議を醸しています。
Shopify はその後、その情報を否定する意味で「キャパシティに影響はないし、今後はマーチャントがより大規模なリテーラーと競争できる環境を用意する。たとえば、廉価での2日以内の配送や、アメリカ国内のカスタマーがより返品しやすい機能を組み込む」と発表しています。
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SFN は迅速で低コストな配送でマーチャントをサポートすることを目的として 2019年6月に発表されて以来、多くの投資をしてきました。5年間で10億ドルを投資するという約束から、2019年9月にはフルフィルメント自動化を支援する 6 River Systems を4.5億ドルで買収したり、2021年8月には Shopify Fulfillment Orders API の公開によって、在庫管理や商品バンドルなどの一連の機能をアップデートしています。
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今回の幾つかの配送業者との契約打ち切りをどう捉えるかにもよりますが、Shopify は2022年2月の決算発表時にフルフィルメントについてのアップデートを発表するという発言をしていますし、昨年のFulfillment Orders API のアップデートや、昨今のラストワンマイル戦略の重要性を考えると、Shopify が近いうちにサードパーティの物流会社を買収する、あるいは(以前からウワサも出ているように)自社で大規模倉庫を運営するようになる、といったインハウス化へ舵を切る可能性が高いのではないかと感じます。
Shopify もプラットフォームである以上、Amazon のようにフィードバックループを自分たちで回していく必要があり、マーチャントの競争力の向上、あるいはフルフィルメントの受け皿として、物流による価値貢献、利益貢献が必要だと考えるからです。
個人的には、この動きは短期的には痛みを伴うものの、将来に向けての必要な意思決定をしたのではないか、と考えています。
物流はパートナーであり競合でもある
EC化率が上昇していく現在、カスタマーの利便性向上と間接コストの最小化を両立させようとすると、どうしても最終的な課題は物流にいきつきます。
Amazon の自社倉庫がモールを拡張していくうえでプロフィットセンターになったように、Eコマースプラットフォームは、どこかのタイミングでかならずロジスティクスを志向するようになるでしょう。(逆に、ここへの投資ができないと、顧客体験の最後の局面をサードパーティに依存し、しかも必ず最後までコストセンターにしかならないため)
日本でもヨドバシが(一部地域限定ですが)エクストリーム便で自社配送網を構築していたりするように、D2C モデルで直販ビジネスの構造を考えると、モールにとっては物流企業がパートナーであり、競合でもあります。
店舗が倉庫を兼ねていく
物流がこれまでの工場→(卸)→小売店と渡るまでの間に担っていた物流は、ECの台頭でプラットフォームや大手ECの倉庫に直接運ばれていく世界になりました。
ヨドバシであれば、巨大な店舗を擬似的に倉庫化し、自らも配送を始めることで新旧のモデルを両立させているように見えます。仮に物量が変わらなかったとしても、工場→小売店の物流と、倉庫→カスタマーの物流では求められる品質や基準が違いますので、配送オペレーションの内部化によって EC と店舗を無理なく成立させることができている(EC対実店舗という不毛な争いを避け、サービスドミナントにしている)と言えるのではないでしょうか。
そして、ネットスーパーや出前サービスのように、ギグワーカーも含めて物流のラストワンマイル市場がコモディティ化すればするほど、そこのコストをプロフィットに転嫁できる構造を持ったビジネスモデルが優位性を増します。結果的に外注ではなく自社で配送網を持つことでフィードバック・ループを回すことができ、それがリソースの効率的な運用や、データ化による機会損失の最小化、外販機会の最大化への応用につながっていきます。
これから出てくる物流サービスはすべてデジタル化が基本ですから、API による接続も活発になるでしょう。配送のスタンダードなモデルが徐々に固まりつつあることで、EC はよりいっそう生活に浸透していくのかなと考えています。今後の展開がますます楽しみです!