Shopify「新しいお客様アカウント」への移行に向けて:メリット・課題・具体的なアップグレード手順

2026年2月26日、Shopifyは「従来のお客様アカウント(Legacy customer accounts)」の非推奨化を正式にアナウンスしました。新規ストアや、現在この機能を利用していない既存ストアではすでに提供が終了しており、今後は機能アップデートやテクニカルサポートも停止されます。最終的な廃止日(サンセット日)は2026年中に別途発表される予定となっており、既存ストアは早急に最新バージョンのアカウントへアップグレードすることが強く推奨されています。

本記事では、この仕様変更に伴う「新しいお客様アカウント」への移行メリットから、日本のECサイトが直面するであろう課題、そして具体的な切り替え・カスタマイズの手順までを解説します。

はじめに:Shopify「新しいお客様アカウント」への移行背景

すでに既存ストアの管理画面からも従来のお客様アカウントの設定オプションは削除されており、一度新しい方式へ切り替えると元の設定には戻せなくなっています。この仕様変更の背景には、近年高まるセキュリティリスクへの対応と、よりシームレスな購買体験の提供を目指すShopifyのプラットフォーム戦略があります。

パスワードを持たない認証方式(パスワードレス)は、Shopifyに限らず各種決済機能やプラットフォームにおける標準的なセキュリティ対策の潮流となっています。ユーザーがパスワードの管理から解放されることで、ログインの障壁を下げ、ひいてはコンバージョン率の向上や顧客サポートの負担軽減に繋がるアプローチです。

「従来のお客様アカウント」から「新しいお客様アカウント」への主要な変更点

新しいお客様アカウントへの移行により、顧客向けの機能が拡張される一方で、内部的なシステム構造やカスタマイズの前提において、根本的な変更が生じます。

認証機能と利便性の向上(パスワードレス)

従来はメールアドレスとパスワードによる認証でしたが、新方式ではメールアドレスと6桁のワンタイムコードによるパスワードレス認証が標準となります。さらに、GoogleやFacebookを利用した「ソーシャルログイン」や、Shop Payの資格情報を使った「Shopでログイン」を含め、複数の認証方法を併用できるようになります。

マイページ拡張方式の完全移行(Liquidからの脱却)

これまでLiquidを用いて行っていたマイページのレイアウト変更や独自拡張は非サポートとなります。新しいお客様アカウントはストアのテーマとは別の領域で稼働し、今後の独自カスタマイズはサンドボックス化された「Customer account UI extensions」という限定的なブロック拡張機能を用いて安全に行う仕様に切り替わります。

シングルサインオン(SSO)とB2B対応の仕様変更

外部システムとの認証連携で利用されていた「Multipass」機能が新方式では非対応となります。今後は「IDプロバイダー(IdP)連携」を利用してSSOを実装する必要があります。また、Shopify PlusのB2B機能においては、新しいお客様アカウントの利用が前提となっており、会社単位の認証(ユーザーのメールアドレスによるワンタイムコード認証)が必須となります。

新しいアカウントへの移行における「メリット」と「残る課題」

プラットフォームの構造変更に伴い、享受できるメリットがある反面、これまでの運用では対応できていた一部の要件において課題が生じる可能性があります。

移行の主なメリット

  • コンバージョンと再購入の向上:「再購入ボタン」を通じたワンクリックでのカート投入や、ログイン状態の90日間保持、Shop Pay連携によるスムーズなチェックアウトが実現します。
  • セキュリティの向上と運用負担の削減:パスワードを持たないことで、流出やパスワード忘れの対応負担が軽減されます。
  • セルフサービス機能の充実:管理画面で機能を有効化することで、顧客自身がマイページから返品リクエストを送信できるようになり、カスタマーサポートの負荷を低減できます。

留意すべき課題と制約

  • マイページのデザイン自由度の低下:新しいお客様アカウントは標準機能で色やフォント、画像を調整できますが、Liquidベースの全面的なデザイン改修はできません。テーマのヘッダーやフッターが表示されないため、ストア本体とのブランド一貫性にギャップが生じやすくなります。
  • 会員登録フォームと同意取得プロセスの消失:新方式は即時ログインが前提となるため、従来の「登録フォーム経由での利用規約への同意」や「生年月日などの属性情報の取得」をログイン前に一度に行う導線が標準では存在しません。これらの情報はログイン後にプロフィール画面などで収集する導線へと、マーチャント側で設計を変更する必要があります。
  • アプリの対応互換性:テーマ埋め込みを前提とした従来のマイページ用アプリは、そのままでは表示できません。「Customer account UI extensions」に対応した新仕様のアプリに置き換える必要があります。

切り替え(アップグレード)に向けた具体的な手順とカスタマイズ

従来形式からのアップグレードは、カスタマイズ状況の事前確認を行った上で、以下のステップで進めることが推奨されます。

Step 1: 従来のカスタマイズの棚卸しと複製

まずは既存の従来アカウントテンプレート(.liquidファイルへの変更やテーマエディタでの設定)を確認し、移行すべき重要な要件を特定します。同時に、設定>チェックアウトから既存の設定を「複製」し、テスト環境を確保します。

Step 2: 必要なアプリとブランド設定の適用

従来のLiquidカスタマイズを、Customer account UI extensionsに対応したアプリ(ロイヤリティ、定期購入、ウィッシュリスト機能など)のブロックに置き換えます。また、チェックアウトエディタの「設定」からブランドのロゴやフォントラインナップを更新し、すべてのページでブランディングが統一されるよう調整します。

国内 Shopify アプリの「お客様アカウント」への対応状況は下記をご参考にしてください
Shopify「新しいお客様アカウント」移行に向けて──各Shopifyアプリの対応状況まとめ【2026年3月版】

Step 3: 機能とメニューの有効化

管理画面の 「設定」 > 「お客様アカウント」 から、以下の設定を行います。

  • サブドメインの接続(例: account.yourstore.com)を設定し、ドメインを自社ブランドに合わせます。
  • 「セルフサービス返品」や「保存された決済方法」などの組み込み機能を必要に応じて有効化します。
  • オンラインストアのヘッダーに「ログインリンク」を表示する設定をオンにし、アカウントコンポーネントメニュー(Horizonテーマ等で利用可能)を構成します。このメニューには、注文履歴やプロフィールへのリンクだけでなく、アプリページなどのカスタムリンクも追加可能です。

Step 4: ソーシャルログインとSSOの設定(該当する場合)

Google/Facebookのソーシャルログインを提供する場合は、Google Cloud ConsoleおよびMeta for Developersで専用のアプリを作成し、取得したクライアントIDとシークレットをShopify管理画面に登録します。独自IDプロバイダーによるSSOを使用する場合は、Multipassからの移行作業を併せて実施します。

Step 5: テストと本番公開

設定した複製環境の動作確認(プレビューおよびテストログイン)を行った後、 「設定」 > 「お客様アカウント」 のページ上部にある [アップグレード] をクリックし、エンドユーザーへの提供を開始します。

※アップグレード後、従来のログインURL(/account/loginなど)はすべて新しいお客様アカウントへ自動的にリダイレクトされる点に注意してください。

まとめ:マーチャントが今取るべきアクション

Shopifyの新しいお客様アカウントへの移行はセキュリティと利便性を両立する世界的な潮流であり、避けて通ることはできません。完全廃止の期日が決定する前に、まずは自社ストアの「従来のお客様アカウント」で行っている以下の環境の棚卸しを推奨します。

  1. Liquidコードやテーマ設定での独自カスタマイズ箇所の把握
  2. 利用中アプリのCustomer account UI extensions対応状況の確認
  3. 外部ID連携・SSO(Multipass)利用状況の再評価

これらの現状を把握したうえで、Shopifyの標準機能と対応アプリの組み合わせで要件を満たせるのか、あるいはヘッドレスアプローチ(Customer Account APIの利用など)による独自のマイページ構築へシフトすべきなのかを早期に見極めることが、移行を成功させる鍵となります。


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